新「聞かない・言わない政策」 同性愛批判は今やタブー
オバマの対宗教戦争・第1部
神を見失うアメリカ(8)
「同性愛者の兵士たちは米軍に欠かせない存在だ。彼らは今、同性愛者であることを公言しても名誉と尊厳をもって軍務に就くことができる」
チャック・ヘーゲル国防長官は6月下旬、国防総省で開かれた「ゲイ・プライド月間」を祝う式典で、同性愛者の兵士たちの貢献を称賛した。同性愛者の権利拡大を訴える6月の同月間を国防総省が祝うのは、昨年に続きこれが2回目だ。式典ではオバマ大統領の側近バレリー・ジャレット上級顧問が基調講演した。
同性愛者であることを秘密にしている場合にのみ、軍務に就くことを認める「聞かない・言わない政策」が維持されていた2011年9月までは、同性愛行為は軍法会議にかけられる軍規違反だった。それから1年足らずのうちに、国防総省はゲイ・プライド月間を祝い、兵士がゲイパレードに制服姿で参加することを許可するようになった。同性愛は軍規違反から一転、称賛される行為へと変わってしまった。
「同性愛者は今や米軍の特権階級だ」。保守派団体「家庭調査協議会」の上級研究員、ボブ・マギニス退役陸軍中佐はこう指摘する。
実際、同性愛者には優遇措置が講じられている。国防総省は今年2月、兵士の配偶者に与えられる福利厚生サービスの一部を同性愛者のパートナーにも拡大すると発表。これにより、同性カップルは法的に結婚していなくてもサービスを受けられることになった。だが、この措置は未婚の男女カップルには適用されないため、同性愛者への過剰な配慮によって逆に不平等を生み出してしまっている。
これに対し、同性愛や同性婚に否定的な意見を表明した兵士は居場所を失いつつある。
昨年夏、陸軍音楽隊に所属するネーサン・サマーズ氏は、自身の曹長昇進を祝うパーティーを企画した。ちょうどその頃、「チックフィレイ」というファストフードチェーンの経営者が男女間の伝統的な結婚を支持する発言をしたことで、同性婚推進派から猛バッシングを浴びていた時期だった。
キリスト教徒のサマーズ氏は同性愛や同性婚に反対する宗教的信念を表すために、パーティーでチックフィレイの料理を出したところ、昇進の喜びは悪夢へと一変する。パーティーに関してツイッターに書き込んだ内容を含め、「大統領を侮辱する行為」だとして懲戒処分を受ける。今年6月にも別の案件で処罰されるが、サマーズ氏の弁護人は同性愛を罪と信じる同氏に対する“宗教迫害”だと批判する。
サマーズ氏はまた、コンサートの合間にオバマ政権に批判的な保守派評論家の本を読んでいると、「部隊の結束を乱す」と咎められたこともあったという。
このほか、個人のブログで同性愛に対する自らの宗教的信念を綴っただけで厳しい懲戒処分を科された兵士もいる。
このため、米軍では同性愛者解禁がもたらす負の影響について、公の場で意見表明するのは許されない空気が生まれているという。陸軍チャプレンを28年間務めた「信教の自由のためのチャプレン同盟」のロン・クルーズ代表は言う。
「兵士たちは同性愛問題に懸念を抱いていたとしても、トラブルに巻き込まれるのを恐れ、発言しないようにしている。これはいわば、新たな『聞かない・言わない政策』の誕生だ」
(ワシントン・早川俊行)











