破壊される結婚制度 待ち受けるのは混乱のみ
オバマの対宗教戦争・第1部
神を見失うアメリカ(16)
米連邦最高裁が6月に下した判決により、カリフォルニア州で同性婚が再び合法化され、同性婚を認める州は13に増えた。拡大の一途をたどる同性婚だが、今後、新たな課題として浮上しそうなのが、同性婚カップルの離婚問題だ。
弁護士のマーガレット・クロー氏がワシントン・ポスト紙に寄稿した論文によると、同性婚を認めるニューヨーク州で結婚した同性カップルが、これを禁じる隣のペンシルベニア州に引っ越した場合、簡単には離婚できないという。ペンシルベニア州では同性カップルの婚姻関係自体が認められないため、離婚もできないのだ。
ニューヨーク州では非居住者でも結婚できる。このため、他州から多くの同性カップルが“結婚ツアー”にやって来る。だが、離婚するには、少なくともどちらかが居住していることが条件となる。1年以上そこで暮らさないと居住者と見なされず、離婚のハードルは高い。
つまり、ようやく「結婚の権利」を手に入れた同性愛者たちは、皮肉にも「離婚の権利」を求めて新たな闘争を始めなければならないという。クロー氏は離婚の不平等解消の観点から、「最高裁は最終的に州が同性婚を禁じるのは憲法違反と判断せざるを得ない」と予想する。伝統的な結婚の定義を守るために、約30州が州憲法または州法で同性婚を禁止しているが、同性愛者の「離婚の権利」のために同性婚を受け入れなければならなくなる可能性があるというのだ。
一方、連邦最高裁が6月に結婚を「一人の男性と一人の女性の法的結合」と定義した「結婚防衛法」の規定に違憲判決を下した際、オバマ大統領はツイッターで次のように歓迎した。
「愛は愛だ」――。
愛情は性別と無関係、だから結婚も性別とは無関係であるべきだというオバマ氏の考え方を端的に示した表現だ。だが、これがいかに危険な発想であるか、オバマ氏は気付いていない。保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のライアン・アンダーソン研究員は、結婚制度の崩壊をもたらす恐れがあると警告する。
「結婚する権利が愛情で決まるなら、なぜ結婚を2人に限定するのか。2人以上が愛し合うことは可能だ。一夫多妻などあらゆる形態を認めなければならなくなり、結婚は枠組みが無くなってしまう」
実際、一夫多妻主義者は最高裁判決を歓迎している。ユタ州で3人の“妻”と20人以上の子供と暮らすジョー・ダーガー氏は、米メディアに「(最高裁が)不公平を正す措置を取ったことは、我々にも影響を与えるのは確かだ。我々は犯罪者と見なされているが、他の人と同じように自由に生きる権利があることを政府は認めるべきだ」と述べ、「結婚の平等」が一夫多妻主義者にも拡大されることを希望した。
同性婚が重婚、さらには近親婚の合法化につながるとの指摘は、同性婚反対派だけでなく賛成派からも出ている。ボストンカレッジ・ロースクールのケント・グリーンフィールド教授は「反対派は同性婚を認めると、重婚・近親婚を禁止できなくなると言っているが、彼らは正しい」と認めている。
実際に重婚がすぐに認められる可能性は低いが、一夫多妻家族の生活を追ったドキュメンタリー番組が人気を博すなど、世論の抵抗感は以前より薄れていることは事実だ。
同性婚という「パンドラの箱」(保守派団体「米国家庭協会」のティム・ワイルドモン会長)を開けてしまった今、米社会を待ち構えているのは、途方もない混乱である。
(ワシントン・早川俊行、写真も)
第1部終わり