「内部腐食」する米軍 同性間の性暴力深刻化
オバマの対宗教戦争・第1部
神を見失うアメリカ(7)
オバマ米政権が同性愛者であることを秘密にしている限り、軍務に就くことを黙認する、いわゆる「聞かない・言わない政策」を撤廃し、同性愛者の入隊を完全に解禁しようとした時、陸海空と海兵隊の4軍制服組トップは強い懸念を示した。
軍隊は兵士が寝食を共にする特殊な環境であり、そこに性的指向が異なる同性愛者が加われば、部隊の規律や結束に悪影響を及ぼすと恐れたためだ。
2011年9月に「聞かない・言わない政策」が正式撤廃されてから2年近くが経過したが、4軍トップの懸念は現実のものとなりつつある。
国防総省は今年5月、2012会計年度(11年10月~12年9月)に米軍内で発生した性暴力の調査報告書を発表した。それによると、女性兵士の6・1%、男性兵士の1・2%が何らかの被害に遭っていたことが分かった。現在、米軍には女性兵士が20万人、男性兵士が120万人いるので、推定被害者数は女性が約1万2000人、男性が約1万4000人。なんと被害者の数は男性のほうが多いのだ。
この中には、女性から被害を受けた男性もいるだろうが、大半は男性対男性の性暴力とみられる。同性愛者が軍務に就くことは原則禁止だった2010会計年度に比べ、性暴力の被害者は6700人、35%も増加している。
「エピデミック(大流行)」(ワシントン・ポスト紙)状態にある米軍内の性暴力は議会で深刻な課題として扱われているが、問題視されるのは男性対女性の性暴力だけで、男性対男性、女性対女性の性暴力、特に同性愛者解禁の影響についてはほとんど関心が払われていない。
「あなたがたは兵士たちの信頼を失った」。性暴力問題で米軍批判の急先鋒に立つ民主党のカーステン・ジリブランド上院議員は、6月の軍事委員会公聴会でマーティン・デンプシー統合参謀本部議長ら軍幹部を厳しく叱責した。
だが、ジリブランド氏は「聞かない・言わない政策」の撤廃を強力に支持した人物。性暴力を招きやすい環境を助長しておきながら、性暴力が増えた責任は全て現場指揮官に押し付けているのだ。
同性愛者解禁は米軍の規律やモラルだけでなく、戦闘能力まで低下させる可能性がある。「信教の自由のためのチャプレン同盟」のロン・クルーズ代表(退役陸軍チャプレン)によると、「過去数年間、訓練や装備品の購入などに費やされるべき膨大な予算、人員、時間が、同性愛者の受け入れ準備に奪われてきた」という。
クルーズ氏は「同性愛者解禁の影響はすぐには表れないが、長期的には米軍の戦闘能力に影響を及ぼすだろう」と警告する。
また、元太平洋艦隊司令官のジェームズ・ライオンズ氏は、ワシントン・タイムズ紙への寄稿で、オバマ政権の下で米軍の最優先事項は「プロフェッショナリズム」から「多様性」に代わってしまったと批判した。「同性愛者やフェミニストの政策課題を推進することが戦闘能力の向上につながるとは思えない。世界中で問題に直面している時に、なぜこのような混乱をもたらす政策を軍に押し付けるのか」
米軍では国防費の大幅削減による戦力低下が懸念されている。だが、憂慮すべきは人員や装備だけではない。士気や規律、結束など目に見えない部分でも深刻な問題を抱え始めている。
米国との同盟関係を安全保障の柱とする日本にとって、米軍の「内部腐食」は決して無視できない。
(ワシントン・早川俊行)






