隠された過激な本性 同性婚の「市民権化」狙う
オバマの対宗教戦争・第1部
神を見失うアメリカ(14)
「同性カップルの結婚を可能にすべきだ」。2012年5月9日、オバマ米大統領はABCテレビのインタビューでこう語った。米大統領が同性婚支持を表明した史上初めての瞬間だった。だが、オバマ氏が連邦上院議員として大統領選を争っていた08年8月、キリスト教福音派の大物牧師、リック・ウォレン師との対談では確かにこう答えていた。
「キリスト教徒として、結婚は一人の男性と一人の女性の結合だと信じる」
オバマ氏は同性愛者と接する中で、考え方が変わったと説明するが、結婚の定義をめぐる宗教的信念がそれほど簡単に変わるものなのだろうか。
実は、08年に強調した同性婚反対は、オバマ氏の宗教的信念でも何でもない。元々、同性婚を支持していたのだ。
イリノイ州上院選に出馬した1996年、オバマ氏は地元の同性愛者雑誌に「同性婚合法化を支持し、これを阻止するいかなる試みとも戦う」と表明していた。だが、国政進出を目指した2004年頃から、同性婚反対の立場を取るようになる。シカゴのリベラルな地域を地盤としていた州上院議員時代とは異なり、州全域で幅広い支持を集めなければならない連邦上院議員選では、自身のリベラル色を薄める必要があったからだ。
08年大統領選で同性婚に反対したのも、選挙対策上の理由だ。この時はまだ、世論の反対が根強かった。だが、12年になると、世論調査で賛成派が反対派を上回るのが当たり前になり、再選のマイナス材料にはならないと判断、同性婚支持に舵を切った。その読み通り、同性婚は大統領選の主要争点にならなかった。
このように、選挙に有利になるよう同性婚に対する立場を巧みに変えてきたのがオバマ氏だ。だが、まだその“本性”を完全には明かしていない。
ABCテレビのインタビューでは「地方レベルで取り組むべき問題だ」と述べ、同性婚の是非は各州の判断に委ねる考えを示した。現在、同性婚を合法化しているのは13州で、37州では認められていない。だが、全米50州に同性婚を認めさせることがオバマ氏の最終目標だ。
オバマ氏は今年1月の2期目の就任演説で、「全ての人はみな生まれながら平等であるという最も明白な事実こそ、我々の先達をセネカフォールズやセルマ、ストーンウォールへと導いたように、今なお我々を導く星であると宣言する」と語った。
セネカフォールズとは1848年に初めて女性の権利に関する会議が開かれたニューヨーク州の町。セルマは1965年に黒人指導者、故マーティン・ルーサー・キング牧師らがデモ行進を行った、公民権運動の聖地とされるアラバマ州の都市だ。そしてストーンウォールは、69年に同性愛者が警察に抵抗して暴動が起きたニューヨーク・マンハッタンにあるゲイバーの名前で、この事件は同性愛者の権利拡大運動の転機となったことで知られる。
このように、オバマ氏は同性婚など同性愛者の権利拡大を、19世紀に始まった女性の権利拡大運動や人種差別解消を求めて黒人が繰り広げた1960年代の公民権運動と同列に位置付けている。同性婚が平等、権利の問題であるなら、最終的には同性婚を否定する州があってはならないことになる。
同性婚を誰も否定できない「市民権」として確立することがオバマ氏の本音だ。だが、まだ機は熟していないと見て、過激な本性を隠している。
(ワシントン・早川俊行)