過激派扱いされる福音派 アルカイダと同列視
オバマの対宗教戦争・第1部
神を見失うアメリカ(10)
オバマ政権下の米軍は、宗教に不寛容という次元を超え、「敵対的」(ランディー・フォーブス共和党下院議員)ともいえる風潮が生まれている。
特に宗教界を驚かせたのが、陸軍がペンシルベニア州の予備役部隊に行っていた教育内容だ。陸軍の教官はスライド資料の中で、「宗教過激主義」として17の団体を例示。この中に、国際テロ組織アルカイダやパレスチナのイスラム根本主義組織ハマス、米国の白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)などとともに、キリスト教福音派とカトリックが含まれていたのだ。
中でも、福音派はリストのトップに位置付けられていた。米国民の半数以上が属するといわれる福音派とカトリックを、アルカイダと並ぶ危険な過激派集団と教えていたのである。宗教界からの猛抗議を受け、陸軍はこのスライド資料を削除した。
だが、今度はケンタッキー州の基地に所属する陸軍中佐が、福音派系の有力団体「家庭調査協議会」と「米国家庭協会」をネオナチやKKKとともに「憎悪集団」と名指しする電子メールを部下30人以上に送付していたことが判明する。
両団体とも同性愛に反対していることがその理由で、中佐は「陸軍の価値観に一致しない」と断じるとともに、「キリスト教右派」への敵愾心をあらわにした。キリスト教右派とは基本的に保守的な福音派を非難する言葉だ。
陸軍全体でキリスト教、特に福音派を敵視する政策が採用されたわけではないが、同じような事案が立て続けに明るみに出たことは、米軍内で広がる風潮を反映しているとの見方が出ている。
一方、米軍から宗教的要素を排除する試みは、さまざまな形で推し進められている。ウォルター・リード陸軍病院(メリーランド州)は2011年に、訪問者による宗教的物品の持ち込みを一切禁止すると発表。これにより、見舞いに訪れた家族やチャプレンが、戦場で重傷を負った兵士のために聖書を持ってきて読んであげることも許されなくなった。
共和党のスティーブ・キング下院議員の抗議により、この方針は撤回されたが、キング氏は「自由を守るために戦った兵士たちが病院のベッドでケガからの回復を目指している時に信教の自由を否定されるとは、最悪の皮肉だ」と痛烈に批判した。
テキサス州ヒューストンの国立墓地は同年、ボランティアで儀仗兵を務める退役軍人らに対し、遺族の同意がなければ葬儀で「神」という言葉を用いることを禁じた。退役軍人団体が訴訟を起こして抵抗したことでこの措置は最終的に撤回されたが、墓地を管轄する退役軍人省の高官が宗教色を排除しようとしたことは明らかだった。
また、空軍士官学校(コロラド州)は同年、世界の貧しい子供たちにクリスマスギフトを贈る慈善事業への支援を中止した。キリスト教福音派系の団体が行う事業であることがその理由だった。
空軍は12年にも、無神論者団体のクレームを受け、「緊急能力室」という部隊のロゴに含まれていた「神」を意味するラテン語を削除している。
こうした事例は枚挙にいとまがないほど続出している。陸軍中佐から憎悪集団と名指しされた家庭調査協議会の会長で元海兵隊員のトニー・パーキンス氏は「米軍に世俗的文化を押し付ける圧力は猛烈に激化している」と、懸念を強めている。
(ワシントン・早川俊行、写真も)






