空軍を世俗化する活動家 布教は精神的レイプ?

オバマの対宗教戦争・第1部
神を見失うアメリカ(11)

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マイケル・ワインスティーン軍宗教自由財団会長(同財団ホームページより)

 オバマ政権下で宗教的要素の排除が進む米軍の中でも、特にその傾向が顕著なのが空軍だ。それは、ある一人のリベラル派活動家の影響といっても過言ではない。その活動家とは「軍宗教自由財団」という団体の会長を務めるマイケル・ワインスティーン氏だ。

 ワインスティーン氏は2005年に同財団を設立して以降、法廷闘争を含めさまざまな手段を駆使し、特に空軍に対して宗教的要素を排除するよう働き掛けてきた。なぜ空軍なのかと言えば、自身が空軍士官学校の卒業生で、空軍に10年間勤務した経験から幅広い人脈を持つためだ。2人の息子も同士官学校を卒業している。

 ワインスティーン氏は空軍士官学校に圧力をかけ、キリスト教福音派系の団体が行う世界の貧しい子供たちにクリスマスギフトを贈る慈善事業への支援をやめさせたほか、最近もアイダホ州の空軍基地の食堂に飾られていたキリスト教的要素を含んだ絵を撤去させている。

 FOXニュースによると、空軍はワインスティーン氏のクレームを受けてから1時間以内に絵を撤去したとされ、同氏の影響力の大きさを物語るものだ。同氏の取り組みは他の軍種にも波及しており、軍事専門紙は同氏を「米国の国防に最も影響力ある100人」の一人に選んだほどだ。

 「布教行為は国家安全保障上の脅威であり、精神的レイプだ。国防総省はこれを治安妨害、反逆と認識する必要がある」

 ワインスティーン氏が過激なレトリックを使って痛烈に批判するのが、福音派キリスト教徒による米軍内での布教行為だ。福音派を「モンスター」「根本主義者」と呼ぶなど、露骨な敵対姿勢を示す。布教行為を行った兵士を軍法会議にかけ、厳しい処罰を科すべきだと訴えている。

 米軍ではもともと、兵士による布教行為は禁じられている。宗教界が恐れるのは、布教禁止規定が厳格に運用され、兵士が同僚や部下に自分の信仰を自由に語ることさえ許されなくなることだ。特に、空軍高官が4月にワインスティーン氏と布教問題について協議したことが、宗教界の懸念に拍車を掛けた。

 福音派系の有力団体「家庭調査協議会」のトニー・パーキンス会長は、FOXニュースに対し「米軍幹部はなぜ、米国で最も過激な無神論者の一人と信教の自由について話し合うのか。人権問題の改善方法について中国に助言を求めるようなものだ」と、空軍の対応を批判した。

 宗教界からの強い懸念を受け、国防総省は5月に声明を発表し、相手の意に反する布教行為は許されないが、「兵士は信仰を(他の兵士と)共有することはできる」と、これまで通り信教の自由は守られることを強調した。

 だが、信仰を共有する行為と布教行為の境界線は極めてあいまいだ。

 「霊的なことを気軽に話しただけで相手から布教行為と受け止められる可能性がある。これは兵士が信仰を共有することを萎縮させてしまう」。1600万人の信者数を誇る米国最大のプロテスタント教団で、チャプレンを含め米軍に多くの信徒を抱える「南部バプテスト連盟」は、兵士が処罰を恐れて自由な信仰表現ができなくなることに強い懸念を示す。

 米軍が布教行為を理由に、実際に兵士を軍法会議にかけて処罰するかどうかは分からない。だが、軍高官に大きな影響力を持つワインスティーン氏の存在は、既に強力な萎縮効果をもたらしている。

(ワシントン・早川俊行)