「社会実験台」と化す米軍 次は性転換者を解禁か

オバマの対宗教戦争・第1部
神を見失うアメリカ(9)

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2010年12月、同性愛者の軍務禁止規定を撤廃する法案に笑顔で署名するオバマ米大統領(UPI)

 「米軍はオバマ大統領の社会実験に利用されている」――。陸軍チャプレンを28年間務めた「信教の自由のためのチャプレン同盟」のロン・クルーズ代表は、こう断言する。

 新薬が一般患者の手に届くようになるには、動物実験や臨床試験を通じて有効性や安全性が示されなければならない。同じように、オバマ氏は同性愛者が一般国民に受け入れられるようにするため、米軍を「実験台」として用いているのだという。

 なぜ米軍が実験台なのか。それは「軍が米国で最も尊敬される機関の一つ」(クルーズ氏)だからだ。つまり、愛国の象徴と見なされる米軍に同性愛者を受け入れさせることで、世論を同性愛者の権利拡大に肯定的な方向へと誘導しようとしているというのだ。

 その“成果”は実際に表れている。クルーズ氏は「米軍が同性愛者の受け入れを正式に認めて以降、世論調査では同性婚容認派が増え、6州で同性婚が合法化された(6月の最高裁判決で再開されたカリフォルニア州を含めると7州)」と指摘する。

 また、米ボーイスカウト連盟は100年以上の歴史の中で一貫して同性愛者の入会を禁じてきたが、今年5月、青少年に限り同性愛者を受け入れることを決めた。キャンプなど野外活動を行うボーイスカウトは軍隊に似た要素があり、米軍がボーイスカウトの方針転換の「文化的踏み石」になったといわれている。

 一般国民の間では、米軍の同性愛者解禁は問題なく行われたと思われているが、これは国防総省による情報統制の影響が大きい。クルーズ氏によると、解禁賛成派の兵士はメディア取材に応じることが認められる一方、反対派はメディアに語ることが許されず、「国民は片方の意見しか耳にしていない」という。

 実は、米軍を利用した社会実験はまだ完了していない。オバマ氏が目指すのは「LGBT」全ての権利拡大だからだ。LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(性転換者)の総称。LGBは軍務に就くことが可能になったが、最後のT、つまり性転換者は除外されたままだ。

 LGBT団体は既に、オバマ政権に対し性転換者の入隊を認めるよう圧力を強めている。クルーズ氏は「(同性愛者に)扉を開いてしまったので、性転換者にも対応しなければならなくなるのは時間の問題だ」と予想する。

 現在、空軍トップの地位にあるエリック・ファニング長官代行は、国防総省で最高位の同性愛者。同氏は「開かれれば開かれるほど、米軍は強くなり、社会も強固になる」と、性転換者の入隊解禁を支持する考えを示している。

 だが、過激な社会実験を推し進めれば、米軍の根幹を破壊しかねない。クルーズ氏は言う。

 「18歳になった娘が軍に入りたいと言った時、親は何と言うだろうか。同性愛者や女に性転換した男が隣で寝るかもしれない環境に、娘を喜んで送り出せるだろうか」

 志願制を採用する米軍にとって新兵募集への影響は死活問題。チャプレンや兵士の良心の自由が否定される事例も相次いでおり、保守的な福音派キリスト教徒の家庭で育った若者は米軍を敬遠する傾向が強まる可能性があると、クルーズ氏は懸念する。

 兵士の4割を占めるとされる福音派キリスト教徒なしに米軍は成り立たない。だが、最高司令官であるオバマ氏は、彼らを遠ざける政策を推し進めている。

(ワシントン・早川俊行)