名護市長選勝利と今後の展望
危機感抱いた市民が結集
基地跡地利用の経済効果大
沖縄県名護市長選の勝利のうれしさに久しぶりに感涙した。
翁長雄志知事や稲嶺進前市長は、普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設が争点から外されたと負け惜しみを言っているが、有権者をばかにしてはいけない。辺野古移設をめぐって県と国が裁判中であることは事実であり、国が敗訴したら辺野古移設の中止もあり得るのだ。市長が賛成、反対うんぬんと騒いでいる時ではない。
翁長知事はいまだに「新辺野古基地(辺野古移設)反対の民意は残っている」と強がっているが、過去2年間、米軍基地が所在する宜野湾、浦添、うるま、名護の4市で、共産党と翁長知事が応援した候補が惨敗した。
また、翁長知事を支える唯一の保守系会派で、那覇市議会の元自民系会派「新風会」は瓦解(がかい)した。その民意をどう見るのか。
名護市長選に話を戻すと、自民党の底力、公明党の必死な動き、維新の会のフットワークの相乗効果があった。何より稲嶺市政の8年間は、「辺野古反対」のワンイシューをアピールした結果、市民生活は無視され、市の活性化はなおざりにされた。
中でも、最も被害を受けたのは辺野古を含めた名護市東側地域だ。稲嶺市政では基地再編交付金を受け取れなかったため、市東側は、下水道施設をはじめとするインフラは未整備なままだ。
閉塞(へいそく)感があり、「失われた8年間」に危機感を抱いた市民が危機突破を願って集まったエネルギーが大きなうねりとなり、渡具知武豊候補を圧勝させ、辺野古改革が起きたのだ。
筆者はすでに1月30日付の本欄で、この戦いは勝てると断言した。その根拠の一つは、建設関連業者がこれまでの諍(いさか)いを乗り越えて結束し、個々の立場、感情を抑えて、とにもかくにも市長選挙を勝たなければという緊迫した殺気が事務所に充満していたことだった。
渡具知候補の人柄や頑張りは言うまでもないが、名護高校生徒会長の娘さんの存在が大きかった。10代の有権者の間で大きなうねりができた。
同時選挙となった市議補選は、辺野古移設反対のリーダー格、反戦活動家として知名度が高い「ヘリ基地反対協議会」の安次富浩共同代表(71)が出馬したので心配していたが、自公が推す仲尾ちあき氏(47)が島袋吉和元市長の陣頭指揮を受けて圧勝した。仲尾氏が負けていたら1勝1敗と評される可能性もあっただけに、市議補選の勝利は相乗効果として大きい。
世界で一番危険な軍事飛行場の危険性の除去が一丁目一番地であり、核ミサイル実験を繰り返す北朝鮮の問題をどうするか。覇権国家中国は南シナ海の制海権、制空権を強引に主張し、次は東シナ海の占有(中国共産党が公言)の現実を直視すると、わが国の未来への安全保障にいかに対応するかが問われる。
世界平和構築・維持への世界的な危機が眼前にある中、安全保障の負担を沖縄県民のみが負担させられる必然性はないが、政治は現実を直視し、未来を展望すべきだ。1609年の薩摩侵攻(古琉球時代の終わり)の琉球の近世近代史への恨みつらみと、現在の基地負担の現実のみが県政、県民の価値観の全てではない。
何が何でも普天間基地の返還を実現しなければならない。それはすなわち、辺野古への移設を実現することだ。辺野古移設と連動して、極東最大の軍事基地である空軍嘉手納基地以南の米軍基地の約1048㌶(東京ドーム224個分)が返還される。これは、日米両政府が21年前、沖縄に関する特別行動委員会(SACO)で合意した。那覇軍港が浦添地先へ移設することで、那覇空港と港の一体化が可能となる。那覇空港はすでに全日空を中心にアジアを代表するハブ空港として機能している。併せて、海のハブ港化も実現すれば、アジアのトップランナーとして日本経済をリードするというアジア経済戦略構想の壮大なロマンが生じる。
また、普天間基地の跡地には、沖縄鉄軌道の駅ができる予定だ。那覇空港から普天間までは地下を通り、普天間跡地で地上に上がり、そこから沖縄本島中北部へ地上を走るという構想は出来上がっている。
米海兵隊が永久に沖縄に駐留するわけではない。世界情勢次第ではあるが、近い未来には辺野古代替施設から撤退する。その時は、基地関連施設を名護市に払い下げし、そこに航空自衛隊那覇基地を移駐させる。そうすることで、年間、数億円の借地料が名護市に入ることになる。なお、嘉手納町は沖縄防衛局から年間5000万円の歳入を得ている。参考までに言うと、祖国復帰の時に航空自衛隊那覇基地は移設する約束だったが、移設先が決まらないまま今に至っているのだ。
那覇軍港、キャンプ・キンザー(浦添市)、普天間基地、航空自衛隊那覇基地はいずれも都市部にある。跡地利用の経済波及効果はとてつもないが、普天間基地が固定化してしまえば、全ての夢は消え去ったことになる。このことは、経済学者の富川盛武副知事に糺(ただ)しておきたい。
(にしだ・けんじろう)