景気と再建を追う安倍政権
何が必要か明確に示せ
増税でアベノミクスに不安
第二次安倍政権が発足して、もうすぐ11カ月になる。この間、支持率は60%前後を推移しており、第一次政権はもとより、ここ近年の自民・民主両政権とは比べ物にならないほどの安定具合である。その大小に関係なく、政策の実現には、まずは安定した政権が必要であることからも、安倍政権が目指す政策の実現は、着実に進んでいくものと思われる。
昨年の衆院選挙や今年の参院選で、国民が安倍政権に求めたことは、この「安定」であり、短命政権の回避であった。そのために留意しなければならないことはたくさんあるが、一つには、人事における総理大臣の指揮力が挙げられるだろう。政権はもちろんだが、1年も続かない大臣では、政策が進まないことは当然である。
参院選後の内閣改造はなかったものの、副大臣・政務官は交代し、この点においては疑問が残る。よほどの事情があれば別だが、本来、大臣・副大臣・政務官は一つのチームとしてその役割を全うすべきだが、大臣だけを残して総入れ替えというのは、とてもチームとは言えない。副大臣や政務官が交代しても、何ら支障がない状況なら、彼らの存在意義も問われるであろう。
本来は、大臣をトップに、それぞれの分担する政策テーマについて、官僚の上に立って目を光らせ、官僚組織を指揮していくのが、彼らの役目だ。衆参の選挙での大量当選で、ポストを回していかなければいけないから人事も行うということならば、それは国民のためにはならない。今後の副大臣・政務官人事は、もっと「チーム」としての役割を意識して、党内向きの内向きではなく、国民のための人事を行ってもらいたい。
安倍政権の発足にあたって、国民が期待したことは、大きく二つのことがあると考える。一つは、景気の回復と経済の発展、もう一つは、日本という国家を“再建”することであったと思う。前者はアベノミクスとして、政権発足から最優先課題で取り組んだ。効果はまだごく一部にとどまっているが、規制の撤廃や新産業への支援など、方向性は間違っていないだろう。後者については、憲法改正、集団的自衛権行使の容認、国家安全保障会議の創設、また教育改革や社会保障制度改革など、国の根幹をなす政策の実現である。これらは、簡単に実現できないものが多いが、国家安全保障会議の創設は、今臨時国会で成立の見込みであり、年明けには組織として発足できるようである。
政権発足から約1年。まずは景気・経済状況を改善するための策を打ち出し、国民生活を立ち直らせる。国の根幹をなす政策については、それと並行しながら、じっくり議論を深めていくということだと思うが、多少不安と疑問がある。
それは、真っ先に取り組んだ景気対策であるが、効果について一部にとどまっているというのは、先述したとおりである。国民全体の懐事情は、1年前と変わっていない。サラリーマンの給与が上がるタイミングというのは、原則年1回である。つまり、今年の春に上がっていなければ、今も上がっていないし、今年度中に上がることもないのである。一部に手取り報酬が増えたといわれていても、それは賞与や一時金によるものであり、それも一部の大企業だけである。
それにもかかわらず、3%の消費税の増税を決定した。一時の駆け込み需要はあるかもしれないが、その反動もあり、日本の経済と国民生活に大打撃を与えることになるだろう。増税の前提条件となる経済指標が上昇したというが、短期でその結果がでる金融の対策を真っ先に取り組んだからであり、国全体の景気や経済状況の改善が本格化したというには、ほど遠いものである。
また、「アベノミクス」の効果という広報も疑わしいのだが、物価は確実に上昇している。それらを総合すれば、家計という単位で考えた時の懐状況は、安倍政権以前より苦しくなっているといってもいいだろう。安倍総理はもちろんのこと、総理周辺も、自民党政権全体も、もっと「本当の実態」を知る努力が必要である。
国の根幹をなす政策については、私自身は大きな反対をするものではないのだが、教育や子育て支援を含む社会保障制度などについては、どうも理念がはっきりせず、やや大衆迎合的になっているように思えてならない。例えば、「待機児童解消加速化プラン」と育児休業3年を企業に求めるなどは、実は相反した政策である。また、国民が健康で長生きできる国家は素晴らしいが、それにはどうしても社会保障費が際限なく必要で、どこまで公的に、国家が保障するのかということには、厳しい議論と選択が必要になってくるはずである。
特定秘密保護法案のように、その運用の仕方には様々な知恵が必要であるが、国家としては当然の法整備でもあるのに、国民にはその意味が理解されないほど、今の日本の価値観は多様化しすぎている。そこで、国家として必要なこと、あるいは国民に求めることを、どれだけ明確に示すことができるかということが、安倍政権の後者の使命には必要になってくる。それは、長期政権を目指すことのできる数少ない政治家である安倍氏には、総理大臣として、人間としての哲学や人格が問われているということでもあるのだ。
(ほそかわ・たまお)






