沖縄県議選の総括と提言

OKINAWA政治大学校名誉教授 西田 健次郎

12年前の「悪夢」が再現
明確にすべき外交・防衛の理念

 伊是名島の後輩で、頭の切れがよく、政治理念がブレない有為な政治家、山川典二候補の再選を図るべく、筆者は老体に鞭(むち)を打ち、早朝のお手振り挨拶(あいさつ)をはじめ、真摯(しんし)に汗を流してきた。

OKINAWA政治大学校名誉教授-西田健次郎

OKINAWA政治大学校名誉教授
西田健次郎

 6月7日に実施された県議選では、那覇・南部離島選挙区は定数11のところ16人が立候補した。42票差という山川候補の次点落選にはあまりにもショックが大きかった。

 選挙戦は結果の如何(いかん)を問わず、厳しい総括をして次への提言をしなければならない、それを等閑(なおざり)にすると、明るい展望につながらない。

 今回の県議選は、何としても保守陣営の過半数を勝ち取り、次の県知事選の勝利に弾みを付けたいとの使命感で、山川候補の選対事務所を拠点に全県下の選挙区を走り回った。

ばらまかれた内部資料

 ところが、武漢ウイルス対策、黒川検事長のマージャン賭博、広島の河井夫妻の選挙買収事犯などによって安倍政権の支持率が下降しだした。

 筆者は12年前の悪夢を思い出さざるを得なかった。いわゆる「後期高齢者医療制度」の法律が国会で成立したのは、沖縄県議選の最中だったからだ。朝のテレビワイドショーでは当時、有名な司会者が、「日本もいよいよ“姥(うば)捨て山法案”が自民党政府によって強硬に成立した」と喧伝(けんでん)していた。

 その日から左翼陣営の煽(あお)りで全国老人会、婦人団体などが騒ぎ出し、従来の自民党支持者数名に「今回だけは自民党には投票しない」と言われた。選挙最中の自民党県議候補は逆風に晒(さら)されてしまい、仲井真弘多(ひろかず)県政は、少数与党に追い込まれた。

 ワイドショー司会者は、後期高齢者医療制度に代わり得る法案も対策も提案せずに、いたずらに不安と愚痴で世情を煽るだけ。現在の辺野古移設反対だけのワンイシューと同じで、後は知らんぷりだ。その結果、自民党の従来の上位当選者(9千~1万2千票)が(6千~7千票)しか取れなかった。マスメディアの自民党批判体制は、ファシズム的な政治風土が醸成される怖さがある。沖縄県は他の都道府県よりも異常だ。

 筆者は投票率が40%以下になると、日頃の人間関係の絆で集票している保守系には不利になるとみていた。

 筆者があえて問題にしたいのは、自民党本部が実施したとされる世論調査だ。これは最も信頼度が高いとされている。この内部資料が那覇市南部の小禄地区を中心に何者かによってばらまかれていた。3回にわたって行われた世論調査では、山川候補が別格とも言える翁長雄治候補(翁長雄志前知事の次男)らに次いで3位にランクされていた。「基礎票が少ないのにそんな数字が出るはずはない」と、筆者は厳しく指摘し、締め付けをしたが、有効な対応をするには時すでに遅しだった。

 県議会議員以上の選挙では、リーダーたらんとする者は、国家・国民の未来の方向を決めていく外交・防衛の理念や哲学を旗幟(きし)鮮明にする荘子の覚悟を求めたい。保革問わず、そのたびごとで決めますとの是々非々中立で浮動票を狙う戦術(戦略ではない)は姑息(こそく)であり、有権者はしっかりと見ていると申し上げたい、

 「人口と金と一帯一路で世界一の覇権国家をめざす」と公言している中国共産党と、その友好国である北朝鮮の核・ミサイル危機にどう対応するかが喫緊の今日的命題であり、それについての政策論争がなかったことは寂しかった。

 普天間飛行場の移設についても、軟弱地盤が見つかったなどの理由で工事費がかかり過ぎるという批判もあるが、羽田空港は辺野古沖よりもひどい軟弱地盤だったのだ。しからば、工事費が少なければ反対はしないのだろうか。移設反対派から納得のいく説明を耳にすることはない。

新リーダーの出現期待

 宜野湾市民など普天間飛行場周辺の住民の悲痛な声や願いに早急に応えるのが現実の政治、行政なのだ。当初から敗訴することが前提である不毛な訴訟合戦は誰のためにもならない。期日と県税の無駄遣いを止めるためにも、革新政党所属または革新系議員の無責任な喧伝を徹底的に論破するリーダーが近未来に育つことを期待し、筆をおく。

(にしだ・けんじろう)