令和2年7月豪雨と防災体制の脆さ

拓殖大学防災教育研究センター長・特任教授 濱口 和久

感染症流行時の対策急務
通信のバックアップも不可欠

拓殖大学防災教育研究センター長・特任教授 濱口 和久

拓殖大学防災教育研究センター長・特任教授 濱口 和久

 最近、気象庁の予報官が行う会見で、よく耳にするのが「50年に1度のこれまでに経験したことのない大雨が降る恐れがあります。命を守る行動を取ってください」という発言だ。

 「50年に1度の大雨」ということは、人間が生きている間に経験するかしないかの大雨のはずだが、平成24年九州北部豪雨、26年広島豪雨、27年関東・東北豪雨、29年7月九州北部豪雨、30年7月豪雨(西日本豪雨)、令和元年東日本台風(台風19号)、今回の令和2年7月豪雨と、立て続けに甚大な被害が起きている。

 風水害だけにとどまらない。平成28年に熊本地震、30年には大阪北部地震や北海道胆振東部地震などの地震災害も起きている。新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染もいまだ収束する気配がない。

防災士を積極的に活用

 「天災は忘れたころにやってくる」という警句を寺田寅彦は残しているが、「天災は忘れる前にやってくる」の方が、より正確に、ここ数年の日本の置かれた状態を表しているのではないか。まさに「災害の日常化」と言えるだろう。

 災害が起きるたびに、被害に遭った住民からは「長年ここに住んでいるが、こんな災害が起きるとは思っていなかった…」という発言を聞く。日本人の平均寿命が延びたとはいえ、日本人の多くが80歳ぐらいで亡くなる。

 自然界にとっては、80年というのは僅(わず)かな時間だ。自然界が引き起こす災害の間隔を、人間の生きている時間の物差しで考えるべきではない。

 令和2年7月豪雨は、コロナの感染が収束しない中で起きた、日本人が経験したことのない甚大な自然災害となった。通常、被災地には日本全国から多くのボランティアが集まるが、コロナの感染拡大(ボランティアという善意の支援行為がウイルスを運ぶ可能性がある)を懸念し、熊本県内の被災した自治体では、県外からのボランティアの受け入れを中止している。

 被災地でボランティアの受け入れを担当する全国社会福祉協議会は6月、「災害ボランティアセンターに関する指針」を公表。コロナのような感染症の拡大懸念がある状況下では、センター設置は被災者ニーズに基づき判断し、ボランティアの募集や受け入れは、顔の見える範囲から市区町村域を基本とするとしている。

 また、今後の被災地でのボランティア人材としては、都道府県に支部を持つ日本防災士会所属の防災士や、公費で防災士の資格を取得した人たちを積極的に活用することも、自治体は検討すべきだ。

 一方で、香川県高松市役所から熊本県人吉市に派遣されていた職員のコロナへの感染が確認された。高松市職員は熊本県に派遣される前に感染したのか、派遣先で感染したのかは不明だが、県外の自治体からの派遣職員に関しても、今後は事前のPCR検査が必要になってくるだろう。

 日本はこれから台風の季節を迎える。昨年の台風15号や台風19号による甚大な被害は記憶に新しい。千葉県内では台風15号の被害に伴う停電により、電話やインターネットの通信障害が起き、千葉県や県内の市町村は被害状況の把握ができない事態となった。そのため、応急対応や復旧などの災害に係る事務・業務が機能麻痺(まひ)状態に陥った。

 同じことが熊本県内でも起きた。停電によりインターネットが繋(つな)がらず、避難所との間を結ぶ自治体のシステムがダウン。八代市では23カ所の避難所を結ぶシステムがダウンしたため、情報発信ができない状態がしばらく続いた。個人のレベルでも、停電による通信障害により、テレビやインターネットでの情報収集ができなくなった。

 同時に携帯電話が通じないことで連絡手段が無くなり、停電地域は「陸の孤島」に陥った。全国の自治体は、通信障害が起きた場合を想定したバックアップ体制を整備しておかなければ、千葉県や熊本県のように被災者対応に支障をきたすことにもなりかねない。

地域防災計画見直しを

 産経新聞が6月中旬~7月上旬に全国の県庁所在地や政令指定都市、東京23区の計74市区を対象にした防災対策のアンケート調査によると、3分の1以上の自治体が「地域防災計画」に感染症流行時の対策を盛り込んでいないと回答している(7月6日付)。

 感染症(コロナ)はワクチンや治療薬が開発されるまでは、感染者数が増えることによって地域医療の崩壊を招く恐れがあり、自治体は早急に専門家の協力を仰ぎながら「地域防災計画」の見直しを行うべきである。

(はまぐち・かずひさ)