令和の時代の平和を考える

元統幕議長 杉山 蕃

集団安保への協力不可欠
宇宙・サイバー防衛力構築も

杉山 蕃

元統幕議長 杉山 蕃

 平成の御代は、30年の歴史に終止符を打った。上皇陛下が御退位を目前に、在位30年を顧みて、「平成が戦争の無い時代として終ろうとしている事に心から安堵(あんど)」なさっている旨のお言葉を公にされ、退位礼正殿の儀でも「令和が平和で実り多くあることを願う」旨のお言葉を賜った。まさにその通りのお言葉と受け止めているが、時間とともにそのお言葉の奥深さに感じ入っているところである。

 この30年、世界、そしてわが国を取り巻く環境は決して簡単に「平和」と言える推移ではなかったと考えるからである。平成元年ベルリンの壁は崩壊し、翌月マルタ会談において東西冷戦は終結する。「本格的平和の到来」の安堵感が世界を駆け巡ったが、同時に、それまで冷戦下の厳しい締め付けで鳴りを潜めていた数多(あまた)の対立・抗争が顕在化する不安定の時代に突入した。

自衛隊の任務が多様化

 当時、防衛事務次官であった「ミスター防衛庁」こと西廣整輝氏は、自衛隊高級幹部会同で、「パンドラの箱が開かれ次々と不満が顕在化する不安定な時代」と表現し、どう転ぶか分からない情勢に、自衛隊の一層の規律厳正を訓示したのが印象深い。新しい情勢に対応するため、防衛問題懇談会を発足させ、鋭意検討の結果、平成6年「日本の安全保障と防衛力のあり方」を発表、同7年「防衛計画の大綱」により、自衛隊の任務を「より安定した安保環境構築に貢献する」として、従来タブー視されてきた海外派遣等、多様な任務を遂行する方向に大きく舵(かじ)を切ったのである。

 この大きな方針の変更は画期的なものであった。特に自衛隊の活動の多様化、特に国際貢献の立場から海外任務が加わったことは新しい時代の到来を感じさせるものであった。そして、この方針に基づき、ペルシャ湾掃海活動に端を発し、多岐に及ぶ海外任務が付与され、既に1万人を超える人員が派遣され、素晴らしい成果を上げてきた。

 このように平成の自衛隊は大きな変革を堅実に実行し、国際的な功績を顕著にした活躍の時代であったが、令和の時代を迎え、国際情勢は如何(いか)に変化していくのか…洞察よろしきを得て、平和が維持できるよう着実な努力が求められる。令和が引き続き平和な時代として継続されるキーと言える事項を3点提起したい。第1点は、世界の安全保障活動をよく理解し、とみにその傾向を強めている国際共同すなわち集団的安全保障というべき流れに協力し、応分の努力を行っていくことである。

 第2点は中国の海軍力を主体とする異常な軍拡、そして懸案の北朝鮮核開発といったわが国周辺の不安定化要因に対し、対応力を強化し、同盟・国際協力を活用して、不安定化を阻止していく努力が必要である。昨年末の中期防衛力整備計画(中業)において、対弾道弾対処装備(イージス・アショア)、ヘリ搭載護衛艦(DDH「いずも型」)の戦闘機運用能力付与改修が決定されたが、結構な方向であると評価している。

 第3点はこれもまた中業で強調された事項であるが、宇宙、サイバーの新しい分野での防衛力構築である。宇宙は既に軍事にとって「利用する空間」から脱皮し「根拠とする空間」といわれて久しい。わが国は残念ながら「宇宙の平和利用」なる多分に左翼的考えが横行し、その活用度は低い。サイバー部門においても、IT・ネットワーク戦といわれる兵器システムの中で、極めて脆弱(ぜいじゃく)な状況にあり、早急な対策が必要であることを認識しなければならない

平和維持へ一層努力を

 かつて、平成の開始時期、日米同盟の再定義、米東アジア戦略の構築に中心的活躍をしたジョセフ・ナイ氏が、来日懇談の折、「神は、人類に数多の恩恵を授けられたが、こと“平和”に関しては、人類が自ら努力してつくり上げるものとして残された。われわれは平和の創出・維持のため、あらゆる努力を惜しんではならない」と、その信念を熱く語ったのが印象深い。令和を迎え、わが国の平和な環境を維持するため、平成にも増した一層の努力が必要である。

(すぎやま・しげる)