反米感情あおるホルツァー氏

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

芸術をプロパガンダに利用
祖国への憎しみに満ちた作品

マーク・ティーセン

 

 スペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館は、アメリカ建築の最高傑作だ。米国人建築家フランク・ゲーリー氏が設計し、チタンの板を使ったうねるような形状を持つ。ところが、建物内に一歩、足を踏み入れると、米国への称賛は終わる。

 2階部分のほとんどは、米国人芸術家ジェニー・ホルツァー氏の作品で埋め尽くされている。その作品は、自身が生まれた祖国に対する憎しみに満ちている。展示室に入ると、まず「扇情的なエッセイ」という作品が目に入る。色が付いた紙に印刷した何枚ものポスターには、ホルツァー氏がつづった文が記されている。もともとは、ニューヨーク市の公共の場に張られていたもので、現在は、展示室の壁に張られ、さまざまな色の幾何学模様を形作っている。展示物としては美しいが、内容は全く逆だ。

◇各国語に翻訳

 扉の右側にある最初に見たポスターには「米国の終わり」というタイトルが付けられている。内容はこうだ。「お前たち金持ちは皆、終わりの始まりを見、あらゆるものを懐に取り込む。逃げられると思っているのだろうが、自分のベッドの中で排泄し、自分の排泄物の中で眠る。ほかの者たちはここに残り、卑怯者の悪臭をかぐなどということがあり得ようか。お前たちに告げる―宇宙旅行はできるかどうか分からず、隠れ場所は完全に破壊され得る。ほかに行き場はない。お前たちの未来はわれわれと共にあるのだから、われわれにお前たちを嫌悪させることをするのはやめよ」

 なんと魅惑的なポスターだろう。バスク、スペイン、フランス、ドイツ語に訳されており、各地の来館者がホルツァー氏の言おうとしていることが分かるようになっている。美術館によると、来館者らが「社会的変革の必要性、大衆を誘導するプロパガンダの可能性、革命に参加する条件について考え」られるようになっている。

 ほかの展示室には、グアンタナモ、イラク、アフガニスタンに拘束されているテロリストらの尋問に関する、一部が黒く塗りつぶされた米政府資料を基に、ホルツァー氏が描いた絵が掲げられている。その中には、黒く塗りつぶされた部分のある資料の絵、米国人の手であらゆる恐ろしい虐待を受けたと訴える収容者らの手書きの文書の引き延ばしなどがある。

 そこには、テロリストらが収容中の虐待についてうそを言うよう訓練されていることも、複数の政府調査官がグアンタナモで拷問は行われていないと指摘したことも、イラクのアブグレイブ収容所のような虐待が起きた場合、虐待者の調査が行われ、罰を受けたことも記されていない。テロリストらの拘束と尋問を担当する米政府職員らは、2001年9月11日の同時多発テロのような攻撃が再発しないよう、誇りを持って職務に当たっている。この展示を見た来館者は、米軍はスペインの異端審問の現代版だと思うようになるだろう。

◇悪意ある中傷

 すべての作品が、ここまで不快というわけではない。垂直なLEDの掲示板が天井から垂れ下がり、シリアの残虐なアサド政権に拘束され拷問を受けた人々の生の声が表示され、スクロールされていく。ここでも、一部が黒く塗りつぶされた軍の資料が並べられ、アサド政権と米政権はどちらも拷問を行っており、人権という面で変わりはないという微妙なメッセージを送ろうとしているように見える。

 罪のない市民への化学兵器攻撃をやめさせるためにアサド政権を攻撃し、残虐な過激派組織「イスラム国」(IS)のカリフ制国家を排除したのは米軍だ。米兵らは日々、命懸けで、私たちを破壊しようとする悪から守ってくれている。ホルツァー氏が作品を作る自由を手にしているのは、この勇気ある兵士らのおかげだ。

 芸術の世界が左寄りであることに驚きはない。しかし、米国の財団が所有し、スペインにとっても重要なビルバオ・グッゲンハイム美術館はその上を行き、反米プロパガンダの道具となっている。国外で、米兵らへの悪意ある中傷を広め、米国への憎悪をあおっている。

 展示されているホルツァー氏の作品の中の黒く塗りつぶされた資料の中には、ごく最近のものもある。モラー特別検察官によるポール・マナフォート被告の起訴状の1ページを巨大な展示物にしたものだ。ロシアとの共謀はなかったとするモラー氏の報告は作品の中にない。ホルツァー氏は、黒く塗りつぶされたこの報告も、作品にすべきだ。すでに取り掛かっているものと思う。

(5月1日、スペイン・ビルバオ)