飲食店に広がるシェアサービス

設備・空間・スタッフを「共有」

 自動車や不動産など個人が持つ「モノ」をインターネットを通じて人と共有する「シェアリングエコノミー」(シェアエコ)が広がっている。飲食店では店舗設備やスタッフなどを「共有」するサービスが登場。多額の出費を伴う開業リスクや深刻化する人材不足などの解決策として注目されている。(社会部・石井孝秀)

インバウンド、人材不足対策にも

 米国で始まったシェアエコは、現在では世界規模に発展。シェアリングエコノミー協会(代表理事・上田祐司、重松大輔)などがまとめた調査結果によると、2018年度の日本国内でのシェアエコ経済規模は過去最高の1兆9000億円近くになった。

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東京・銀座にオープンした日本初のシェア型レストラン・re:DineGINZA(運営会社favy提供)

 今年1月にオープンした東京都中央区の「re:Dine GINZA」(リダイン銀座)は、最大5人のシェフが設備や客席などを共有する日本初のシェア型レストラン。各シェフはそれぞれ専用のキッチンでメニューのラインナップを作成する。客からの評判の高いシェフには独立支援を行うというシステムで、独立・起業を希望するシェフが開業資金を抑えて銀座の一等地で“腕試し”できるのが目玉となっている。

 運営会社の広報担当者は「飲食店の7~8割が3年で閉店するという統計がある。シェア型のレストランやキッチンなどは今後増えると予想されるため、飲食店の廃業率抑制につなげていきたい」と語った。

 シェアサービスを提案する場も増えており、2月25日には飲食店関係者らを招いたUSEN Media(USEN―NEXT GROUP)主催「飲食店イノベーションセミナー2019」が都内で開かれた。

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単発バイトアプリ「タイミー」について説明する小川嶺社長(左)=2月25日、東京都品川区のUSEN-NEXT GROUP本社(石井孝秀撮影)

 同協会代表理事で、カフェや住居をレンタルスペースとして貸し出す仲介サイトの運営会社「スペースマーケット」CEOの重松氏もプレゼンテーターとして参加。シェアエコについて「テクノロジーが発展し、効率化の徹底が進んでいる。飲食店でもお客様の来ない時間帯をレンタルスペースとして貸し出すなど極限まで効率化できる。空間やスキルなどジャンルの異なるシェアを組み合わせたやり方も出てきており、飲食店のかたちは大きく変わってくるだろう」と指摘した。

 荷物預かりサービスを運営する「ecbo(エクボ)」(工藤慎一社長)は、飲食店をはじめ店舗や施設の空きスペースを、旅行者などが荷物を預けられる場所として提供する「ecbo cloak(エクボクローク)」を紹介。サービスは店舗側にとって初期投資なく始められ副収入にもなり、また、サービス利用者が飲食店の客として再訪するなど顧客開拓につながるメリットがある。

 工藤社長は「現在、サービス利用者の7割は外国人で、うち香港や台湾のユーザーが特に多い」と、インバウンド(訪日観光客)需要の高さを強調した。

 単発バイトアプリの「タイミー」(小川嶺社長)は、飲食店の経験歴1年以上など、店舗側が提示した条件に合えば面接なしですぐに働くことができる。18年8月のサービス開始から、ユーザーは既に6万人を突破。中には45カ所の職場で、即戦力の働き手として“シェア”されている利用者もいるという。

 タイミー利用者の一人で、立教大学の宮本万梨子さん(22)は「普通のバイトはシフトがうまくいかないことも多い。タイミーだと急な休講でも2~3時間ですぐに仕事ができるので、自分のニーズに合っていた」と話す。小川社長は「店舗の業務を単発の働き手でもカバーできるような環境に整えるなど、タイミーの導入を業務改善につなげてほしい。それが結果的に人手不足の解決に結び付く」とアピールした。

 一方、シェアサービスの課題は、シェアへの不安感の払拭(ふっしょく)、貸し出したモノが破損するなどのトラブル防止対策、サービスを受けられる地域が限定されている点などだ。USEN Mediaの成内英介社長は「便利なシェアサービスは海外に数多くあるが、日本では規制や既得権益の関係で展開が遅い。まずは事業者が現場で普及させることがシェアサービスの推進につながる」と語った。