電磁攻撃に弱い米国の送電網

ビル・ガーツ

ビル・ガーツ氏

 米空軍のクワスト教育・訓練軍司令官(中将)は空軍が開催した電磁パルス(EMP)の脅威に関する専門家会合で、米国の電力網は、中国、ロシアからの核爆発によるEMPや戦術的電磁兵器の攻撃、磁気嵐に対して脆弱(ぜいじゃく)であり、全米が停電に見舞われる可能性があると警告した。

 クワスト氏は会議中、電話インタビューに応え、「米国民は西側文明が電気と情報の上に成り立っていることを知るべきだ」と指摘、「スマートフォンや携帯電話、送電網、電気、情報は、経済の発展や活力のための魔法のソースのようなものだ」と電力・通信網の重要性を強調した。

 会議は「電磁防衛タスクフォース」の一環として開催され、電磁パルスによる攻撃や事象に対する備えを強化するよう求めたトランプ大統領の指示を受けたものだ。

 クワスト氏は、電力と通信を支えているインフラは、EMPなどの影響を考慮せずに造られていると指摘、「米国の送電網は、電磁スペクトラム(EMS)を兵器化する可能性のある潜在敵を想定して造られておらず、その問題点を技術的に掘り下げることに取り組んでいる」と、米軍施設・基地の電磁攻撃に対する防御と強化を進めていることを明らかにした。

 また、「EMP攻撃といえば、宇宙空間での核爆発によるものだと思われがちだ」とした上で、「電磁スペクトラムについての知見は深まっており、敵対勢力が戦術的電磁兵器で、戦術的、限定的な標的を狙う可能性についても検討している」と強調した。

 会議では、弱点を探し、解決方法を模索するための攻撃を想定した図上演習も行われた。クワスト氏は演習のほとんどは非公開とした上で、「弱点を取り除き、競合国が米国への攻撃で弱点を突いてこないようにする戦略の作成を進めている」と述べた。

 タスクフォースは昨年、指揮統制など重要部分への電磁パルス攻撃の脅威に関する報告書を作成、「複数の敵国が送電網の主要部分を停止させる可能性のある戦略的攻撃を仕掛ける能力を持つ」と結論付けている。

 攻撃によって、軍事施設の大部分の通信施設が同時に影響を受ける可能性もあり、報告は「攻撃や自然現象によるEMSの影響を軍事施設の指揮系統が受けた場合、付随する部隊の能力が低下または失われる」と指摘している。さらに報告では、米国上空で核爆発が起きた場合、壊滅的な停電を引き起こし、3億1800万人が30日間にわたって影響を受けることを示す図も示されている。EMPによる停電には原発も脆弱であり、冷却装置の電源が長期にわたり失われた場合、炉心溶融や放射性物質の放出もあり得る。ほとんどの原発の非常電源は約16時間程度しかもたない。