コロナと共に世界に拡散、反中国・アジア人ウイルス

山田 寛

 

 新型コロナウイルスに乗って、欧米、アジア大洋州、中東など世界中に反中国の人種差別・ヘイトが広がっている。人種差別には絶対反対だ。だが中国発でこれ程被害が拡大した上、習近平政権の対応と姿勢・態度を見れば、憤るのは理解できる。

 習政権の初動や情報統制の問題はずい分指摘されてきたが、その後の対応を見ても「人命より共産党政権の権力維持が大事」の姿勢、中華思想的で上から目線の態度がはっきり表れている。

 なぜ習近平国家主席は、北京の病院と街で檄(げき)を飛ばしただけで、特製防御服を着て武漢視察をしないのだろう。以前のSARS流行や四川大地震の時は、当時の胡錦濤主席が現地入りした。19世紀ロシアの農民社会主義運動のスローガンは「人民の中へ」だったが、習氏は「人民のずっと上へ」なのか。

 なぜテレビ演説をし、国内外に少しでも反省や謝罪の意を示さないのだろう。外国要人との会見写真でも仁王立ちで、WHO(世界保健機関)事務局長などの方が嬉(うれ)しそうな笑顔で駆け寄っている。こんな力関係では全くダメだ。

 習主席と王毅外相は、この問題で35カ国以上の首脳とやりとりしたという。だが、その内容は「中国は当初から情報を公開し、国境越しのウイルス拡散を効果的に防ぎ、世界のため多大な努力をし、多くの国の首脳から称賛された」との自画自賛。米国に対しては「パニックを引き起こそうとし、具体的援助は何もよこさない」(外務省報道官)と非難した。「世界のため奮闘中の中国に“朝貢”すべき」というのか。

 上から目線で摩擦も引き起こした。デンマークの新聞に、中国国旗の五星をウイルスに変えた漫画を掲載されて抗議し、駐イスラエル代理大使が「中国からの入国禁止措置」に抗議してホロコーストを引き合いに出し、米紙の論稿の内容を問題にして駐北京記者を追放した。いずれも相手国から猛反発された。

 近年の中国の振る舞いへの反感があった国も多い。そこに新型ウイルスの恐怖が人種差別の火をつけた。中国のデカイ態度がその火を煽(あお)る。主対象は中国人だが、外見が区別し難いからアジア人全体が標的にされている。

 フランスやオーストラリアの新聞に「黄禍」「黄色い人間に注意」の見出しが躍った。

 独ベルリンやイタリアのトリノ、ニューヨークなどで女性が殴り倒され、カリフォルニアでも少年が高校生集団に襲撃された。

 欧米、イスラエル、オーストラリアなどの路上で、「ウイルスめ」「コロナめ」「出て行け」の罵声が浴びせられている。学校で「ウイルス」と呼ばれ、いじめられた児童もいる。

 若いパリジェンヌが「中国人が居過ぎるのよ」とテレビカメラに訴える。イタリアや韓国、香港、ベトナムなどで「中国人お断り」の店がある。欧米では、電車やバスの中で隣にアジア人が来たら逃げ出すのが“よくある光景”になった。カナダの世論調査では、18%が「そうする」と答えている。

 SNSでは一層酷(ひど)い文言が飛び交う。一方、在仏中国人青年協会の「私はウイルスじゃない運動」など反撃の動きも出ている。

 反中国・アジアのウイルスは新型肺炎収束後も残存する可能性がある。日本が韓国と共に、中国の周りの“感染首都圏”視されたら、「私は日本人だ」と叫んでもダメだろう。日本国内の感染拡大を全力で防がなければならない。

 だが中国はもっと謙虚に、広がった悪印象の改善に努められないのか。日本も忖度(そんたく)(地域限定入国禁止措置でも、習主席国賓来日問題でも見られた)を減らし、より率直に物申して行くべきだろう。

(元嘉悦大学教授)