新型肺炎により観光客減少、沖縄観光経済を直撃
今年度50万人減想定、南西地域産業活性化センターが試算
沖縄の民間シンクタンク、一般財団法人南西地域産業活性化センター(NIAC)はこのほど、沖縄県経済の2019年度実績見込みと2020年度見通し、さらには、新型肺炎コロナウイルスによる訪日中国客の減少が県経済へ及ぼす影響についてリポートを発表した。今年度50万人の観光客が減少すれば、就業者数が1940人減るという悲観的なデータとなっている。(沖縄支局・豊田 剛)
観光収入は281億円減、就業者数は1940人減の見通し
新発想・新企画で対応の旅行会社も、危機感抱き先手打つ
沖縄県屈指の繁華街、那覇市の国際通りでは、一年を通して昼夜問わず、多くの人でにぎわい、いろいろな言語が飛び交う。ところが、2月中旬からその光景は一変した。外国人の姿はほとんどなく、人通りもまばらだ。土産店や飲食店が必死で観光客を呼び込むも、まったく手応えがない様子だ。
あるドラッグストアは、「中国人の団体客が来なくなり、2月は前月と比べて3割ほど落ち込んでいる」という。ある土産屋の店主は、「修学旅行生がだいぶ減った影響で売り上げの落ち込みは激しく、バイトの子には無理を言って休んでもらっている」と話す。「3月上旬の休校や外出自粛で今後はもっと厳しくなる」との見通しだ。
県は入域観光客数が今月も大幅に減少すると予想、今年度の観光客は前年度達成した1000万人超は厳しいという見方を示している。1月は72万7800人で、前の年の同月と比べて2万5700人減少した。「2月と3月は大幅な減少となるのは確実」(県幹部)である。
こうした中、NIACはこのほど、新型肺炎による訪日中国客の減少が県経済へ及ぼす影響を試算したリポートを公表した。
新型肺炎の感染拡大の影響が約半年ほど続いた場合、18年度の約4割に相当する30万人と他国の外国客や国内客を合わせて、50万人減少すると想定。観光収入は同年度の約4%に相当する281億円のマイナスになり、就業者数は1940人減るとの見通しを示した。
NIACの金城毅上席研究員は「国内外の感染が拡大し、いつ終息するのか見通すことは難しくなっている。感染拡大が長引けば影響はさらに大きくなる」と指摘した。
中国人客は沖縄を訪問する観光客の中でも消費単価が比較的高い。リポートが発表されたのは2月19日で、同26日には安倍晋三首相が大規模イベントの開催を自粛するよう要請。翌日には小中高校を一定期間、休校とするよう各自治体に要請した。県幹部は、「収入と雇用の減少が、リポートの想定を大幅に上回ることは避けられない」と悲観的だ。
リポートは、2019年度の沖縄県経済については、「全国の景気回復が緩やかな中で前半はおおむね好調に推移した」が、「後半は消費増税や日韓関係の悪化、新型肺炎の影響から個人消費や観光関連が弱含んで拡大ペースが鈍化し、特に新型肺炎の感染拡大が悪影響を及ぼし始めている」と指摘した。
2020年度は、「新型肺炎の影響がどこまで拡大するか不透明な中、少なくとも年度前半は観光関連産業を中心に業況の落ち込みが予想される」と分析。一方、「7月の東京五輪期間中は、交通規制や宿泊料金の高騰から国内観光客や外国客が東京を避けることも予想」され、県内観光が受ける影響は小さいと見込んでいる。
新型肝炎が及ぼす観光経済への影響に危機感を抱き、先手を打つ企業も出てきている。県内観光最大手の旅行会社は、3月以降のツアー予約は前年を大きく下回る見通しであることから、「何でもやる課」を設立した。同課を立ち上げることで、社員の新たな発想を引き出し、今回の苦境を脱する企画を打ち出す狙いだ。その第1弾として、オリジナルのショルダーバッグの販売を2月20日から始めた。また、県内宿泊者限定で割引きするサービスも拡大している。
県の観光関連の外郭団体、沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)も、今後、観光客の50万人以上の減少は避けられないとの見通しを示した。3月上旬に観光客数や予約状況をヒアリングし、観光関連企業の損失額や雇用状況を調査する予定だという。
= メ モ = 観光客数減少が沖縄県経済に及ぼす影響
(入域観光客数が50万人減で試算)
観 光 収 入 ▲281億円
名 目 G D P ▲196億円
実質GDPの成長率 ▲0.4%
就 業 者 数 ▲1940人
完 全 失 業 率 +0.1%
消 費 者 物 価 ▲0.05%
税 収 ▲38億円
(南西地域経済活性化センター調べ、▲はマイナス)