外国人観光客を呼び込め
地方自治体 あの手この手
日本政府は2020年までに訪日観光客(インバウンド)4000万人と消費額8兆円の達成を掲げている。昨年度のインバウンド数は2869万人と5年連続で過去最高を更新。今年は台風など災害の影響が懸念されるが、日本政府観光局によると8月までの累計インバウンド数は前年比12・6%増の2130万9000人で、昨年より速いペースだ。目標達成のためには東京や京都などの名所から地方への観光客分散が鍵といわれ、外国人の誘客に知恵を絞り、成功する地方自治体も増えてきている。
(社会部・石井孝秀)
岐阜県・高山市 官民でプロモーション
長崎県・南島原市 農業・民泊体験ツアー
9月20~23日に東京ビッグサイト(東京・有明)で開かれた「ツーリズムEXPOジャパン」(主催・日本観光振興協会など)で、インバウンド事業に取り組む「やまとごころ」の村山慶輔社長が、最新のインバウンド状況について講演。「訪日観光客のリピーター率は6割で、10人来てると6人はリピーター。そうなると買うものも訪れる場所も変わる」と指摘した。
また、「観光客が既に分散してきているので、一つの市などの『点』ではなく広域の『面』で押さえることが重要。特に欧米豪からのインバウンドは滞在日数が長く、複数の場所を回るので消費額がとても高い」と説明。「今までお金が落ちなかったものでも、企画によって価値を高めるなど、商品作りの工夫が地域に求められている」と強調した。
今後の傾向として「世界全体での海外観光客数の見通しは、2020年は13・6億人、30年は18・1億人で、東京オリンピック以降も伸びていく。インバウンドはバブルではなくトレンド。特に日本がこれだけ短期間に客数や消費額を伸ばしていることは、世界から注目を集めている。そのノウハウを教えてほしいと言ってくるのは間違いないだろう」と語った。
江戸時代の城下町の姿を残し、その景観から「飛騨の小京都」とも呼ばれる岐阜県高山市は、外国人観光客に人気のスポットだ。市内の年間インバウンド宿泊数は13年度から過去最高を更新し続けており、昨年度は初めて50万人を突破。これは同市人口の約5・7倍に当たる。

ツーリズムEXPOジャパンにブースを出展した高山市。春と秋に行われる「高山祭」はユネスコ無形文化遺産に登録されており、世界中から多くの観光客が訪れる=9月21日午後、東京・有明の東京ビッグサイト(石井孝秀撮影)
ホームページは英語や中国語、ドイツ語など11カ国語で表記されており、散策用の多言語マップも市内各地で簡単に手に入る。インターネットの整備も進んでおり、Wi-Fiにメールアドレスを登録すると7日間無料で使用可能。観光客の情報収集やSNSでの写真投稿に役立つだけでなく、台風など緊急情報の発信や観光客へのアンケート調査にも活用されている。
同市では11年度にインバウンド促進のため、海外戦略室(現・海外戦略部)を設置。職員を海外派遣して観光PRなどに取り組んだ。10年前の08年度は同市の観光客数のうちインバウンドの占める割合は約4%だったが、昨年度は1割を超えた。
同市の海外戦略部はインバウンド増加について「宣伝も大事だが、外国人受け入れに向けた住民の理解と協力も大きい。一朝一夕のものではなく、官民一体となって地道にプロモーションを続けてきた結果」と語る。
一方、15年度に海岸や山地などを巡るウオーキング「九州オルレ」のコースが設置(九州全体では現在21コース)された長崎県南島原市では、近年、韓国人の観光客が急増している。
韓国・済州島で始まった「済州オルレ」の姉妹版で、同市を訪れた韓国人の数は12年度0人、13年度20人だったのが、昨年度は931人だった。同市の商工観光課によると、コースの設置を機に農業体験に訪れる人や学校間での交流が増加。今年11月には韓国の小学校から教師・児童・保護者ら50人が、市内の小学校を訪問予定だという。
韓国人だけでなく中国からの観光客も増えている。昨年度に同市を訪れた中国人観光客は1184人だった。農業・漁業や民泊の体験を行っている南島原ひまわり観光協会の担当者は「日本に何度か来たことがある方が多い。普通のツアーでは観光地の住民と関われないので、日本人との交流に関心のある人が農業や民泊の体験ツアーに参加している」と話した。





