平成31年度防衛予算に思う
新中期防へ意欲的主張
「宇宙」「サイバー」など強化
今回は、8月末日公表、9月14日インターネット掲載された平成31年度防衛予算概算要求について、若干の所見を披露したい。今回防衛関係費として計上された概算要求額は約5・3兆円で、前年度当初予算比2・1%の伸び率となった。厳しい周辺軍事情勢の中、当然と言えば当然であるが、結構な要求額と考えている。しかし、少し長い目で見ると、ここ20年、防衛費は5兆円の寸前で停滞し、約20年横ばいを続けた。「財政再建」という「お家の事情」を抱えているものの、その停滞ぶりは、あまりにも長期にわたったと言わざるを得ない。
この間、東アジアの軍事的不安定の要因である中国の軍事予算は、公表予算ベースで約3倍に膨張した。この結果、海空宇宙を中核に、驚くべき速度で軍拡が進められているのである。特に2隻目となる空母の進水、多数のミサイル巡洋艦・駆逐艦、戦略原子力潜水艦、ステルス戦闘機・艦載戦闘機等開発・建造を背景に、南シナ海小島嶼(とうしょ)、岩礁の軍事基地化、台湾海峡周辺の軍事基地新設・強化、周回軍事演習等の示威行動は東アジアの行き先に大きな不安を予期させるものである。
他方、北朝鮮の核武装も着々と進み、世界中の非難にもかかわらず、一定の核能力を保持するに至っているのは、衆知の通りである。このような情勢下、当面の対策を講じながら、長期的にいかなる方針を取っていくのか、真剣な論議が必要である。こうして見ると、ここ5年間、安倍政権誕生以来、防衛費の控えめではあるが着実な伸びは、当然の帰趨(きすう)と考えてよいだろう。
31年度防衛予算は、中期的防衛力整備の面から、特別な位置付けにある。それは、「防衛力のあり方」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」というわが国の防衛力を決定していく中期計画の初年度に当たることである。現在の中期計画は26年度から30年度までの5カ年計画(26中期防)であり、31年度からは新中期防が開始される。従って31年度予算は次期中期防の初年度に当たり、31年度予算案を見れば、鋭意検討が進んでいる中期防の姿が見えてくることである。計画通り進めば、年末には新中期防が確定公表され、同時にその初年度予算が確定するタイミングである。
このような観点から予算内容を見ると、かなり意欲的な主張が前面に掲げられている。それは、安倍首相も公言した、「宇宙」「サイバー」「電磁波」の新しい分野での能力強化に代表される主張で、大いに評価されるべきものである。米国が宇宙軍を創設し、「宇宙を利用する」姿勢から「宇宙を根拠にする」方針に転じてから既に四半世紀が経過した。当時「宇宙の平和利用」という偏狭な主張の下、軍事に不可欠となっていた偵察衛星の分野への自衛隊の進出を拒否する勢力がはびこったこともあり、宇宙への進出が出遅れた経緯を有するのは、残念な過去であるが、今や北朝鮮核開発問題における米国偵察衛星の活躍は、たびたび実映像が報道されるごとく、主役と言ってよく、わが国における機能強化はますます重要である。
さらに、宇宙ベースの警戒監視機能、広域にわたるデータ通信、指揮系通信等その重要性はますます進むことは明白であり、この面での機能強化は大いに評価できる。サイバー、電磁波の分野においても、その重要性は認識されているものの、真面目な対応という面で後れを取ってきたことは否定できない。特に最近の中国の当該面での資源投入は大きなものがあり、防衛活動のみならず、国家諸力の活動能力の保全は極めて重要な課題であり、組織的な対応力強化は時期を得た施策と考えている。
かねて本欄で筆者が主張してきた対艦・対空・対宇宙への防衛システムのスタンドオフ性についても、イージス・アショア対弾道弾システムをはじめ、F35型機への対艦・対地巡航ミサイル(JSM)搭載、イージス艦SM3ミサイルに対弾道弾能力の強化、島嶼間高速滑空弾の開発等各種のスタンドオフ装備事業が推進、着手されることが決まり、誠に結構なことと考えている。半面、わが国の広大な領海、経済水域を考えると、警戒監視、スタンドオフ能力はまだまだ不十分、さらに一層の充実が望まれるところである。
このように31年度防衛予算は評価すべきものであるが、一歩進んで、より基本的な姿勢を、長期的視野に立って、議論を深める視点に立つことが必要であると考えている。日米同盟を基軸とすることは当然であるが、「自ら国を守る気概」をいかなる形で、どこに線を引いていくべきかという基本的議論を深め、国民的合意形成の上、周辺軍事情勢に的確に対応していくという本来の姿を確立していく必要性を訴えたい。北朝鮮の核武装問題は簡単に解決するとは思えないし、中国の軍事的膨張は、遠からずわが周辺海域に活動領域を広げてくることは明らかである。このような周辺国の一方的な動向への的確な対応、核脅威への対応をはじめとする喫緊の課題に、平和主義者、反戦主義者を含めた幅広い階層の中で総合的な議論を深め、独立国家、平和国家としての位置付けにおける防衛の在り方を深く掘り下げていきたいものである。
自民党総裁選も終了し、安倍政権が最後の3年間を踏み出したこの時期、堅確な防衛政策の構築に期待したい。
(すぎやま・しげる)






