温暖化で注目集める北極海

中澤 孝之日本対外文化協会理事 中澤 孝之

航路として重要性増す
鉱物資源も豊富、中国も触手

 近年、地球の温暖化による影響の一つとして北極海が注目されている。第1に、北極圏の海水の減少で、北極海航路(NSR)の重要性が格段に高まった。今や、「NSRを制するものは新たな世界貿易の路を制す」とも言われる。また第2に、北極海大陸棚の豊富な鉱物資源の開発にも各国の注目が集まり、第3には、米露両国にとってこの地域の軍事戦略的な重要性が増大しつつある。

 北極海周辺8カ国(ロシア、米国、カナダ、アイスランドおよび北欧4カ国)は、1996年9月のオタワ宣言に基づいて北極評議会(AC)を同年発足させた。日本は2013年から非北極圏国常任オブザーバー13カ国の一つとして認められた。AC加盟国のうち北極海の強大な沿岸国であるロシアの動向は各国から注目されているが、ロシアは北極圏の将来についてどう考えているのだろうか。そのヒントとなるプーチン大統領の発言を紹介しよう。15年7月に訪露した米国の著名な映画監督オリバー・ストーン氏に大統領は次のように語っている。

 「北極圏について、主要な問題は三つある。私は軍事専門家ではないが、北極点を含むこの地域が米国とロシア双方の弾道ミサイルの軌道だと言っても、別に機密を漏らすことにはならないだろう。改めて指摘しておくと、米国とロシアのミサイルの軌道はいずれも双方の施設を標的としている。残念なことだが。そしてどちらも北極圏を通過するようになっている。(中略)北極圏はわが国の安全を守る防衛能力の確保に欠かせず、大きな戦略的重要性を持つ」

 「2番目が鉱物資源だ。われわれは2年ほど前に北極海において炭化水素資源の採掘を開始した。これについてはさまざまな議論があるが、こうした見解の相違は、既存の国際法、国際海洋法の枠組みの下で解決可能だと私は考えている」

 「そして3番目の要素が、輸送に関わる問題だ。地球温暖化によって、この領域を航路として使用できる期間が延びている。過去には船舶が北極海を航行できるのは1年のうちほんの2、3週間だったが、今では何カ月も使用できるようになった。それによって欧州からアジア、アジアから欧州、場合によっては米国までの輸送コストが大幅に低減できる。それも、この地域の重要性が大きく高まっている理由の一つだ」

 「(北極圏は)非常に興味深い問題だよ。もちろん、考慮すべき点は他にもあるが、私は今挙げた三つが主要な要素だと考えている。だから、北極圏に接する国だけではなく、世界中の多くの国がこの地域に関心を示しているんだ。協調の手段として、ACが存在する。こうした手段を活用して、今言ったような極めて重要な問題全てについて相互理解を目指すことになろう」

 プーチン大統領は指摘していなかったが、ロシア自身、北極圏に位置するロシアの港湾改修が進んでいないことが今、大きな問題となっている。タス通信(7月23日)は、最新の情報として、「NSR港湾のインフラは不十分な条件下にあり、北極大陸棚資源開発の拡大や同地域での軍部隊のプレゼンスによりその改善に迫られている」と報じた。北東連邦大学(ヤクーツク)の専門家によれば、北極海に面しているクラスノヤルスク地方(シベリア中部)の一つの港湾を除き、実質的に全ての港湾は改修を必要としているという。この専門家は「(ロシアの)NSR港湾の既存システムは、死活的に重要な商品、燃料、食料品を円滑に供給するインフラを提供できず、実質的に毎年、供給が予定通りに実行されることはない」と断言し、「SNRの増大する能力と北極圏資源の潜在的な可能性に関連する計画は、NSRによって北極圏の天然資源を欧州、アジア市場に輸送するというものだが、ロシアは北極圏を外部プレーヤーなしで自力で開発することはできない。外国からの投資を含めた投資の誘致を必要としている」と指摘した。

 北極海非沿岸国でAC常任オブザーバーの中国の動きも今後注目すべきだろう。中国は昨年1月、北極圏のインフラの発展、資源の発掘、NSRでの船舶の運航のすべてについて、主要アクターになる宣言を行った。同年5月北京での「一帯一路」に関する国際会議で、プーチン大統領は「一帯一路とNSRの連結」を提案。これに基づいて、17年からNSRは、一帯一路における第1のルート「陸上シルクロード経済ベルト」、第2のルート「21世紀海上シルクロード」に続く第3のルートとして中露で共同開発していくことが約束された。このルートは「氷上シルクロード」とも呼ばれる。

 中国の習近平国家主席は昨年11月、メドベージェフ首相が訪中した際に、「ロシアと共同でNSRの開発・利用協力を推進し、『氷上シルクロード』を造り上げなければならない」と強調した。その直後、習主席は「氷上シルクロード計画」を、さらに今年1月に中国政府は初の北極白書「中国の北極政策」をそれぞれ発表した。中国は自国を北極近隣国家と位置付けて、法と自然環境を守りつつ多面的な発展に貢献すると主張している。

(なかざわ・たかゆき)