米・トルコ 対立が先鋭化

牧師の釈放めぐり報復合戦続く

 トルコと米国の対立が先鋭化している。関係悪化の端緒は、トルコで2016年7月に発生したエルドアン大統領暗殺未遂事件に関し、エルドアン氏が、米国に亡命中のトルコのイスラム指導者、ギュレン師を首謀者と断定、米国に同師の送還を求めたこと。これに対し米国は、「証拠不十分」として送還を拒否した。今年8月以降は、ギュレン師との関係を疑われ、トルコで約2年間服役した米国人牧師、アンドルー・ブランソン師の釈放をめぐって両国間の対立が深まっている。(カイロ・鈴木眞吉)

トランプ大統領 同盟関係見直しも

 米財務省は8月1日、トルコがブランソン師を不当に長期拘束し、人権侵害を続けているとして、トルコのギュル法相とソイル内相の2閣僚に経済制裁を科した。それに対しトルコ側は4日、米国の法相と内相を制裁対象とする報復措置を発表した。

タミム首長(左)とエルドアン大統領

15日、アンカラで、握手するカタールのタミム首長(左)とトルコのエルドアン大統領=トルコ大統領府提供(AFP時事)

 今度は、トランプ米大統領が10日、トルコに対する鉄鋼・アルミニウムの追加関税引き上げを発表。この事態を受け同日、トルコの通貨リラが急落、米ドルに対し一時22%下落し、過去最安値を付けた。

 トランプ氏が、ブランソン師の釈放にこだわるのは、同師が、米共和党の有力な支持基盤の一つであるキリスト教福音派に所属しているためだ。米メディアは、トランプ政権にとって、11月の中間選挙での勝利を目指す上で、釈放を実現させることは重要な意味を持つと報じている。

 一方、エルドアン氏は、ギュレン師との関係が疑われる5万人以上を逮捕するなど、粛清を進めており、「ギュレン運動と関係を持ち、投獄された人々を組織化した」とみているブランソン師を釈放するという譲歩は認めづらい状況にある。ブランソン師は、有罪なら35年の懲役刑となる可能性があるという。

 エルドアン氏はリラ急落を受け、国民向けテレビ演説を行い、「皆さんの財布の中にあるドルや外貨資産、金塊をリラに替えて」と叫び、「国家的戦いだ」と買い支えを呼び掛けた。

 同氏はさらに、「米国が単独行動主義の傾向を見直さない限り、トルコは新たな友人と同盟国を探し始めるだろう」と警告、同日、プーチン大統領と電話会談した。トルコでは4月、ロシア企業が、トルコで初となる原発建設に着手している。

 エルドアン氏は13日にも、首都アンカラで行った演説で、「われわれは共に北大西洋条約機構(NATO)の加盟国だが、米国は戦略的パートナーを背中から刺そうとしている」と非難した。

 しかし、エルドアン氏こそがNATOを裏切っているのではないかとの国際的批判もある。トルコは2017年9月、ロシアの最新鋭地対空ミサイルS400の導入を決定、NATO加盟国の反発を招いた。

 エルドアン氏の一連の発言の中でもう一つ気になる傾向はイスラム的価値観の強調だ。

 同氏は11日、黒海沿岸の都市で米国を名指しで批判、「あちらにドルがあるなら、こちらはアラー(神)がいる」と述べた。

 黒海沿岸の別の都市では同日、「金利は搾取の道具」であり、可能な限り低く維持すべきだとの考えを示した。これは、イスラムの「利子を取ってはならない」との信仰に基づく指摘で、トルコ中央銀行の政策にも影響を及ぼしている。

 あるエコノミストによると、エルドアン氏は「利下げをすればインフレ状況も落ち着く」という奇妙な主張を展開、利上げを妨害しているという。

 エルドアン氏は14日、米企業の電化製品の不買運動を呼び掛け、15日には、乗用車やアルコール飲料などの米製品の輸入関税率を最大140%に引き上げた。

 エルドアン氏と同じく、イスラム組織「ムスリム同胞団」を支援して、アラブ主要国から断交されたカタールは15日、トルコを支援するため、「150億㌦」(約1兆6000億円)の直接投資を行うと発表、共闘姿勢を鮮明にした。

 トランプ氏は16日、NATOの同盟国であるトルコとの関係を見直すことを示唆、にらみ合いが続いている。