今こそ水産・卸売業の将来像描け
一般社団法人生態系総合研究所代表理事 小松 正之
外国頼みから国内重視へ
安価な安定供給体制の強化を
新型コロナウイルスによる肺炎は2019年12月に中国・武漢で発生、世界保健機関(WHO)は20年1月30日に「緊急事態宣言」を、3月11日にパンデミック(世界的流行病)宣言を加盟国に対して発した。これに対して米国は、WHOが迅速な行動を取ることを怠ったと非難し、米国のWHOへの分担金を60~90日間支払いを一時停止すると表明した。
封じ込めに重要な4点
日本は、中国からの訪問者が多い都道府県で発症者・感染者が多かった。中国の習近平国家主席の訪日延期と東京オリンピックの開催延期の発表の遅れで、新型コロナウイルスの封じ込め対策が後手に回り、感染が拡大した。
5月9日の東京の感染者は36人で、31日まで延長された緊急事態宣言の解除が重要事項である。解除に必要な対策として真に重要なものは次の4点であろう。
それらは①感染者の診療と医療体制の充実②検査体制の確立・充実とコロナウイルスの監視体制③回復・処置薬の開発と希望感染者への投与④ワクチンの研究開発と安全性確立と普及―である。政府から明確に国民に対して説明をする必要がある。
4月24日、WHOが新型コロナウイルス対策の「資金集め世界会合」をネット開催した。そこにはフランスのマクロン大統領やドイツのメルケル首相およびメリンダ・ゲーツ基金会長らの顔が並び資金の拠出を呼び掛けた。安倍晋三首相は呼ばれなかった。5月4日には欧州連合(EU)本部で「ワクチン開発拠出会議」が開催された。世界は新型コロナウイルス収束後の事業再開を検討しだした。
収束には上記の4点が課題だが、とりわけワクチン開発には時間がかかり、WHOによれば早ければ9月までに、常識的には1年から1年半かかるという。米国は明年1月をめどにしている。
ところでこうした異常事態の中でも、水産業と卸売業は生産地から卸売市場を経て、消費者に食料を届ける重要な役割を担っている。しかし消費の減退で生産者も流通業者も加工業者も疲弊している。他の全ての事業と同様、その正常な事業の再開が待ち望まれる。
このような状況で多くの問題と課題が明確になった。それらを踏まえれば漁業・水産業と卸売業が将来にわたり、取り組むべき方向は以下のようになろう。
まず外国は当てにならない。多くの輸送ラインが停止され、人的な交流も遮断された。加工労働力と漁船労働者と漁船オブザーバーなどが確保できない。国内労働力をもっと活用すべきである。観光インバウンドに依存を強め過ぎ、国内自給率が低いのにアウトバウンド需要と輸出振興を推進してきた。しかし今、国産を強化する重要性が明確となった。
次に消費者の水産物への需要が減少した。外食産業、特にすし屋など飲食店が軒並み総倒れである。観光地需要も落ち込み、大人数での宴会やイベントの減少も大きい。安価で量的な供給を行い流通させる国内生産流通体制の強化と、地道な国内需要の喚起が重要である。
水産資源乱獲で供給を減少させ、価格を上昇させ、それを良しとする漁業者、漁協と行政官と政治家の姿勢が問題である。国民と消費者の目線がない。キロ4000円もする鯨肉、イクラ、サケ、スルメイカやサンマは、もう食料ではなく嗜好品(しこうひん)であり、資源管理と外交を強化して低価格と量的安定の基本的な流通に戻すことが必要だ。
また漁業者は生産・資源管理のルールを守り、個別譲渡性漁獲割当制度(ITQ)制度の下で、安定供給と市場のニーズに合った供給を推進させることである。卸売市場も資源の管理のために率先してITQ導入を唱え、シドニー・フィシュ・マーケットの前例を真似(まね)、ITQを保持し資源管理を実行することが重要だ。
さらに卸売市場も検査・取締官を入れて漁獲を監視することだ。また、卸売市場内に水産資源管理の専門家を雇うこと義務付けるべきだ。自らの勉強と漁業者と消費者へのアドバイスの提供を義務とすべきである。
卸・仲卸の統合・合理化を
最後に、産地・消費地卸売市場とも、卸売業者と仲卸業者の経営の統合は避けられない。豊洲市場をはじめ取扱量と金額は軒並み大幅ダウンである。合理化と統合を推進する最高の時期である。豊洲市場に卸売業者7社と仲卸業者500社弱は多過ぎよう。
(こまつ・まさゆき)






