民意見誤った学生主導デモ
二極化する香港 識者インタビュー(3)
全国人民大会代表 呉秋北氏
中国の全国人民代表大会(全人代=国会)が今後、香港の法整備にどう関わるか、香港選出の全国人民大会代表(国会議員)、呉秋北・香港工会連合会理事長に聞いた。
――昨年9月末から79日間続いた香港中心部での占拠デモ(雨傘革命運動)は強制退去で幕を閉じた。デモは政府転覆を目論む香港版のカラー革命でジーン・シャープ著「独裁体制から民主主義へ―権力に対抗するための教科書」を使い、政府転覆のための198の手法をマニュアル化して参考にしていると先回指摘していたが、なぜ、失敗したのか。
デモ首謀者が情勢を間違って判断したことが大きい。香港世論の支持や反応を見誤った。デモ長期化は香港経済、社会構造に打撃を与え、長く続くはずがない。香港政府も時間をかけてデモに適切な対策を実行し、最終的に一般市民がデモ続行を嫌う状態にした。
――ジーン・シャープ理論への対策として親中派の民間団体「保普選反占中大連盟」(周融召集人)は違法デモを警察が取り締まることを支持する署名活動で183万件の署名を集めた。これが奏功したのか。
民主派の手法は実は反民主主義的だ。オキュパイ・セントラル(香港金融街の占拠デモ)運動を大学副教授ら3人が首謀したが、それだけでは民衆が動かないのでシャープ理論を使った。しかし、雨傘運動を主導した学生組織は社会経験がなく、夢や理想ばかりを主張し、デモで流血事件が発生すれば不満を広げていくシャープ理論をうまく使えなかった。デモ後半、学生側も意見が対立し、一枚岩ではなくなった。シャープ理論通り、店を一時閉店したり、社会的弱者、高齢者、貧困層などを動員しなかった。警官隊もデモ隊を刺激せず、毎日午後4時に最新情報を市民に提供し、対応したからだ。
――民主派は中国の全人代常務委員会が1日に国家の安全や利益を守る中国国家安全法を施行したことで、再び香港に政治的圧力が加われば再び占拠デモを行う用意があると主張しているが、本気あるいは威嚇パフォーマンスと思うか。
学生団体は国家安全法を拡大解釈し、反政府感情のリアクションに過度の期待をしているが、支持を得られないだろう。今回の国家安全法の施行は不備が多かった古い国家安全法の修正でしかない。ただし、私も全人代で言及したのは、香港では極端な本土主義(反中勢力)、香港独立を叫ぶ一部の分裂主義者が存在するため、それに対処するために基本法23条による公安条例の新たな制定は必要だということだ。
――昨年8月末に全人代常務委員会で提出された香港行政長官の普通選挙改革法案が6月18日に香港立法会で否決された。全人代が再び香港の選挙改革法案を発議する可能性はあるのか。
立法会で否決されても、全人代の改革案の基本方針が否定されたわけではない。ただし、10年間、時間を無駄にした。2017年の行政長官選挙までは従来通りの選挙となり、政治情勢に変化がなければその後も新たな改革案が提出される見通しは立たない。
一国二制度は平和的革新手段
――梁振英行政長官の任期(1期5年、最長で2期まで可能)は残り2年を切った。全人代の一員として梁行政長官は在任期間を全うし、2期目再選を目指すべきと思うか。
梁行政長官は経験と実績を培って来ているので他候補より有利だろう。他にどんな候補が出馬するか不明なので未知数だが、現段階で梁長官より適職者は見つからない。中央政府は残り任期2年を全面的に支援するはずだ。
――今年11月、香港では区議会議員選挙があり、来秋は立法会議員選挙が行われる。選挙に向けて新たな署名活動を展開したり、自身が選挙に立候補することはあるか。
区議会は民生中心で親中派に有利。立法会は政府を監督する意味合いで民主派に有利だが、現状を選ぶか、親中派と民主派の議席数に少し変化を願うか、いずれかだろう。組織化した保普選反占中大連盟から選挙に人を出すことはないが、投票率を上げる活動は続ける。所属する香港工会連合会から立法会への出馬要請があれば可能性は排除しない。
――香港の一国二制度は現時点でどの程度、機能していると思うか。期限となる2047年にはどのレベルまで達成できると見るか。
過去の脱植民地化では、たとえば、インド、マレーシア、シンガポールを見ても流血事件が起こっているが、一国二制度は平和裏に実行できるイノベーションだ。英領植民地時代を懐かしんだり、香港独立を叫ぶ者もいて、逆にその対価を払う必要があった。香港市民が団結すれば、香港基本法が目指す普通選挙実現に向けた改革が進む日は来ると信じる。
(聞き手・深川耕治、写真も)