中国の動向 汚職の裏に愛人による腐敗堕落
中国の動向 香港誌「前哨」編集長 劉 達文氏に聞く(下)
天安門事件で心神喪失/他派閥失墜、長老が巻き返し
ポスト習近平の候補者に中央財経指導小組弁公室主任
中国の習近平政権は汚職取り締まりを断行するため、江沢民派の周永康氏が無期懲役となり、胡錦濤派の令計画氏が拘束されるなど、習近平総書記の求心力が強まる一方、江沢民派、胡錦濤派の反発も強まり、北戴河会議で激論が展開されている。中国政府の動向について香港月刊政治誌「前哨」の劉達文編集長に中国の権力構造を中心に聞いた。(聞き手・深川耕治、写真も)
――胡錦濤前国家主席の側近だった令計画・前党統一戦線工作部長が党籍剥奪、公職追放処分になり、収賄の疑いで逮捕された。徐才厚・前党中央軍事委員会副主席や郭伯雄・前党中央軍事委員会副主席など軍制服組トップも次々と拘束され、汚職だけでなく、多くの女性と関係を持ち、同じ娼婦グループを使ったために同じ性病に感染していたことまで香港の各政治誌に内幕が紹介されている。党幹部の腐敗はなぜ、これほど共通しているのか。
中国の故事でも、汚職官員の背後には必ず女性がいると言われている。党の汚職官僚も不倫している愛人に告発されて官位を奪われるケースが多い。収入から見れば、一般の官僚であれば夫人と子女を養うことはまったく問題ない。
中国では伝統的に男性は妻を大切にする。しかし、愛人は貪欲に金品を要求するため、ある意味で無限に汚職していかないと貢げない。中国中央テレビ(CCTV)の李東生・元副局長は有名女性キャスターや女子アナウンサー、女優を党幹部の愛人に送り込む調整をして周永康氏や軍幹部にも配分し、自分の立場を安泰にしていこうとした。
――これほどの党幹部の汚職だけでなく不倫による堕落、退廃が深刻化したのは江沢民政権になってからか。
1989年6月の天安門事件以降からだ。天安門事件までは改革開放路線の勢いがあり、胡耀邦総書記(当時)、趙紫陽総書記(当時)が指導することで党内モラルも比較的健全だった。
しかし、天安門事件によって民主主義に逆行し、将来に希望が見えなくなった。官僚は民衆のために生きる自信を喪失し、官位による出世と権力欲だけを求める享楽主義に陥った。いわゆる心神喪失の危機に直面した。
――習近平政権は「虎もハエもたたく」汚職摘発キャンペーンを続け、江沢民元国家主席を中心とする上海閥、胡錦濤前国家主席を中心とする団派(共産主義青年団出身の派閥)の求心力を削(そ)ぎ、習近平国家主席の権力集中が際立ってきているが、党内権力闘争はどうなっていくか。
党内権力闘争は複雑になっている。党幹部で汚職しない人はいないのに習近平国家主席が汚職摘発キャンペーンを続けて政敵(敵対派閥)の幹部を摘発することで、選択肢としては差別的に行っているようにみえる。新しい制度の建設という意図には見えない。
現段階では2017年秋の第19回党大会に向けて自派閥の人材をいかに党幹部に昇格させ、勢力を拡大させるかに集中している。汚職摘発は今後も続くが、トーンダウンして露骨な他派閥たたきの形は取らなくなるだろう。
――中国共産党の指導者や長老らが毎夏、河北省避暑地の北戴河に集まって開く非公式会議「北戴河会議」で習近平政権が行う汚職摘発キャンペーンに対して長老らが猛反発して自派閥の温存に巻き返しを図る攻勢に出ている。訪米予定だった習近平氏の側近である王岐山党中央規律検査委員会書記のマネーロンダリング(資金洗浄)問題を米国側が問題視する動きや習近平氏が命を狙われる動きもあり、習政権は安泰とは言えないか。
江沢民派、胡錦濤派だけでなく、温家宝元首相、李鵬元首相も家族の汚職摘発の動きがあり、長老たちが第19回党大会の人事に向けて自分の安泰をかけて激しく反撃していくはずだ。
中国共産党の場合、人事配分は長老たちの意見を聞く必要がある。対外的には中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対して日米が加盟しない圧力があり、西沙諸島、南沙諸島の中国領有権に対して東南アジアが連携して反対しているので習政権にとって政権運営は決して楽ではない。
王岐山氏のマネーロンダリング疑惑や習近平国家主席の家族の不正蓄財疑惑についても不透明な部分を厳しく突かれている。
――第19回党大会に向けてポスト習近平の候補としては誰が有力視されるか。
現時点では見通すのは難しいが、経済問題で信頼を得ている劉鶴中央財経指導小組弁公室主任ぐらいだろう。頭角を現している人物はなかなかいない。
――7月初め、中国の女性活動家の李婷婷氏が北京で同性結婚式を行った写真を各メディアが紹介し、中国でも同性婚の主張が上がり始めている。李氏は3月、国際女性デーに合わせ、バスや地下鉄での痴漢行為防止を訴える計画を立て、中国当局に拘束された。男女不平等や性的少数者(LGBT)への差別撤廃を求めるリーダーで同性婚の合法化を目指しているが、中国政府はこの動きにどう対応するか。
中国では当然、社会の主流思想から同性愛には反対する。中国政府としては同性愛を支持する動きには極めて敏感に対応し、しかも、民主活動家であれば動向を監視される。中国では同性愛が許容されるには50年以上かかるだろう。