来秋の立法会選挙が天王山

二極化する香港 識者インタビュー(5)

民間団体「保普選反暴力」大連盟代表 周融氏

 香港最大の親中派民間団体「保普選反暴力」大連盟の周融代表に香港政局の現状と未来について聞いた。
(聞き手=香港・深川耕治、写真も)

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 周融 1950年4月、香港生まれ。香港英字紙記者、星島新聞グループ社長、RTHK(香港電台)の番組「千禧年代」司会などを歴任。ネットメディア「HKG報」総裁。民間団体「幫港出声」代表、「保普選反暴力(旧・保普選反佔中)」大連盟の代表。

 ――6月18日、香港立法会(議会=70議席)で2017年に行われる行政長官選挙の普通選挙法案が賛成8、反対28で否決され、廃案になった。賛成票を入れるべき親中派の議員30人以上が議場外にいて投票すらしなかった失態は来秋の立法会議員選挙で影響を与えるか。

 愚かな失態だった。建制派(親中派)は必ず対価を払う必要があるだろう。来秋の選挙までに信頼回復が求められる。

 ――今後、香港政局の転換点となる天王山はいつか。

 選挙案の否決は決して香港の政治改革の完了形ではない。政局の最大のヤマ場は来秋の立法会選挙だ。ゴルフに例えれば現段階は9ホール。最終18ホールは来秋の選挙だ。法案の否決には全議席の3分の1(70議席のうち23議席)以上が必要で、来秋の立法会議員選挙で反対派(民主派)が23議席以上獲得すれば、2021年まで普通選挙改革はあり得ないことを意味する。仮に反対派が22議席以下になれば、中央政府は再度、普通選挙改革案を提出して改革できる可能性がある。

 ――2013年から始まった民主派のオキュパイ・セントラル(香港金融街セントラルの占拠デモ)運動、昨年9月末から79日間続いた学生主導の雨傘革命運動に一貫して「保普選反佔中大聯盟」の反対署名活動を展開し、3回に分けて各100万人以上の署名を集めている。来秋の立法会議員選挙に役立つ票読みの参考になるか。

 先回(12年)の立法会選挙では350万人が有権者登録し、投票したのは183万人(投票率53%)。そのうち100万人が反政府派(民主派)、80万人が建制派(親中派)だ。当組織で実施した香港幹線道路での反政府座り込みデモに反対する署名活動は3回実施し、1回目は150万人(香港在住の外国人家政婦、未成年を含む)、2回目は183万人(海外からのネット署名40万人、未成年11万人を含む)、3回目は121万人(18歳以上の有権者限定)だった。

 正確に分析すると、121万~123万人が親中派に投票する計算となる。しかも3回目の121万人の署名活動は今年5月末に行った最新のものだ。先回の立法会選挙で親中派に投票した80万人と比べると5割増で手応えを感じる。5割増でなくても3割増と見ても104万人は親中派に投票し、反政府派(民主派)の得票を超える。7月1日の反政府デモも昨年の51万人から4万8000人に激減し、着実に反政府派離れが広がっていることに自信を持っている。今後1年で反政府派が先回の100万票をどこまで守るか、建制派の121万票を維持できるか、勝敗の鍵となる。

 ――台湾の選挙でも最後は無党派中間層の票がどう流れるかで勝敗が決まる。香港も同じ構造か。

 そうだ。親中派、反政府派は基礎票が60万~70万票。これまで4回の立法会選挙で勝敗の鍵を握る無党派中間層は最後に反政府派へ流れていた。しかし、現段階では中間派の支持は親中派が有利になっている。しかし、競馬で例えれば、最後にダークホースが出てくることもあり、予断は許さない。

一部民主派のテロリスト化憂慮

 ――立法会選挙で親中派が議会3分の2(47議席)以上を獲得した場合、梁振英行政長官の二期目続投は確実と見るか。

 選挙で勝てば梁長官の政権運営は行いやすい。再選されるかどうかは、他の候補者次第であり、見通せない。

 ――親中派が議会の3分の2を獲得した場合、中国の全国人民代表大会(全人代=国会)は普通選挙改革案をどんな内容に変えて香港で議決させようとするか。

 前回より内容をやや緩和させて有権者を喜ばせる内容にするか、提案自体をしないか、どちからだろう。2027年の行政長官選挙から普通選挙改革が施行される計画で中央政府が準備するのではないか。

 ――民主派には反中国の本土主義、香港独立を叫ぶ急進派も出現し、学生組織も分裂し、弱体化している。親中派にとって有利な動きか。

 1960年代、70年代、欧米の過激派の影響を受ける時代があったが、今回も一部がテロリスト化することを憂慮している。香港は狭いので防犯しやすく、テロリストが中国本土に入れば即拘束される。昨秋の79日間の幹線道路デモでも参加者の情報を細かく収集し、対策を立てている。

 【取材メモ】沙田(シャーティン)競馬場のレストランで会い、選挙を競馬で例えるジャーナリストとしてのウィットは健在。民主派が非民主的手法で反政府活動を行っていることに失望し、民間組織を立ち上げた。