再選困難な香港行政長官
二極化する香港 識者インタビュー(11)
香港誌「前哨」編集長 劉達文氏(下)
――2017年の香港行政長官選挙に出馬する有力候補は誰か。
6月29日、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバー57カ国による設立署名式で中国の習近平国家主席が香港ナンバー3の曽俊華(ジョン・ツァン)財政官と握手をした。1990年代、江沢民国家主席が董建華氏(香港の初代行政長官)と握手したシーンを想起させられる。
曽俊華財政官は穏健派で官僚経験があり、野心家ではないので幅広く香港市民に受け入れられている。昨秋の雨傘革命運動以降の処理をうまくできなかった香港ナンバー2の林鄭月娥政務官より評価されている。曽”成立法院長も可能性がある。さらに実力があるのは梁錦松(アントニー・リョン)元財政官だ。
――7月1日、中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は台湾や香港、マカオに対しても国家主権や領土統一を守ることを義務付けた中国国家安全法を施行し、テロ対策強化を目指す「反テロ法」や外国民間団体の活動を制限する「外国非政府組織管理法」(NGO管理法)も近く成立する見通しだが、中国政府の動きをどう見るか。
返還後も香港から中国本土に入ろうとした民主活動家が多数拘束されている。今回の国家安全法の施行前には、2005年に中国の国内法として反国家分裂法を制定し、もともと中国自体が分裂する矛盾を抱えているのに台湾への軍事侵攻を正当化して軍事力で台湾を牽制(けんせい)してきた。香港には現段階で安全上の脅威などない。香港返還前でさえ安全保障上の脅威はないし、返還後はなおさらない。新たな国家安全法施行の動きは香港、マカオの住民に新たに中央政府の政治的圧力で脅かし、経済的繁栄だけを守れという思惑ではないか。
――普通選挙法案の否決など、一連の民主派の動きで梁振英行政長官が続投する道筋を逆につけたのではないか、との見方もあるがどう見るか。
梁振英行政長官は残りの任期2年間を全うしても、2017年の行政長官選挙で勝つことは極めて困難だ。香港市民は世論調査の支持率を見ても梁振英行政長官を支持していない。中央政府も梁振英行政長官の再任を薦めないだろう。就任して3年だが、香港人を一つに束ねて団結できなかったし、むしろ二極化して分裂している。行政長官候補として梁振英氏よりも能力のある人物が他にいると見ているはずだ。
――6月4日の天安門事件追悼キャンドル集会で香港大学生連合会(学連)が不参加となり、香港基本法を焼く学生が出現したり、急進民主派の熱血公民が別の場所で独自の集会を展開したり、香港独立論を主張するグループもある。民主派の学生グループが分裂し、弱体化しているのではないか。
多元化する社会では出てくる現象であり、若者の動きについては憂慮していない。香港人にとって民主主義よりも自由が一番重要な問題だ。04年に基本法23条による国家転覆罪を盛り込んだ公安条例案が制定される動きに対して自由が奪われるとの危機感が出てくると、53万人の反対デモが起こったことから見ても、自由が脅かされることを最も敏感に嫌う。
(香港・深川耕治、写真も)
=おわり=