親中派の投票失態、選挙で審判
二極化する香港 識者インタビュー(4)
香港民主党副主席・立法会議員 何俊仁氏
香港の民主派政党・民主党副主席(前主席)の何俊仁立法会議員に香港の民主化動向について聞いた。
――毎年恒例となった7月1日の民主化デモは、今年は昨年の1割程度(主催者発表=4万8000人)に激減している。今後、香港の民主化はどのように展開されるべきか。
6月18日の普通選挙改革案が賛成8票、反対28票で否決された。親中派は大部分の議員33人以上が退場していて投票すらできない棄権という珍事で物笑いの種になった。
中央政府に対しても面目を失う行動だったので、次回選挙で有権者に審判される。
民主派の議員団は廃案に追い込んだのでリラックスムード。7月1日のデモ参加者が例年より少ないのは、法案を廃案にした安堵感、小休止したい表れだ。
4万8000人が参加したのは少ないとは思わない。
――7月1日、中国の全国人民代表大会(全人代=国会)は国家安全法を施行した。香港、マカオ、台湾にも適用されるべきであることを明示しているが、中国共産党の一党独裁に反対する民主党議員として、あるいは弁護士として中国本土に入境した場合、同法によって拘束される恐れはないのか。
弁護士の立場から見ると、同法は現状では香港には適用されない。香港基本法がある限り、中央政府でいくら法律を施行しても香港に適用されないことになる。香港で適用するには香港基本法第23条で新たな法案を成立させて施行しなければならない。
返還18周年が過ぎたが、新たな公安に関する条例案は策定されていない。梁振英行政長官の任期中に策定されることもないはずだ。 私の場合、1989年以降、中国本土に戻ることが許可されていないが、仮に中国本土へ行くようなことがあっても恐れていない。弁護士として中国本土で私に営業させたくないだろう。
――鄧小平が提唱した一国二制度が香港特別行政区に適用され、18周年を迎えた。香港の民主化、中国の民主化にとって香港の高度な自治を保障する一国二制度、港人治港はどれくらい機能してきたか。あなたの評価は?
1997年からの10年間、基本法によって民主化がある程度進んだ。しかし、07年と08年は行政長官を一般有権者の手で選ぶ権利が凍結され、政治改革は3度否決された。12年の時だけ多少進展があった程度だ。香港の民主政治は完全な制度ではなく、立法会の中では多数の民主派勢力があるが、香港全体の民主化を保障することにはなっていない。
民主化は中国指導部の容認が不可欠
――支連会(香港市民支援愛国民主運動連合会=何俊仁主席)が毎年行っている6月4日の天安門事件追悼キャンドル集会で香港大学生連合会(学連)が不参加となり、香港基本法を焼く学生が出現したり、急進民主派の熱血公民が別の場所で独自の集会を展開したり、香港独立論を主張するグループもある。
今年、26周年の追悼キャンドル集会は13万5000人が参加した。中国共産党の事件に対する評価については抗議し、再評価を求め続けている。
ここ数年、青年層が中国大陸の圧力に対抗する本土運動を起こしている。私も立法会議員として本土主義を重視しているが、青年層は中国全体の流れまで俯瞰(ふかん)できない。中国を愛する香港人にとっては中国政治を無視してはいけない。中国が民主化されることで香港がさらに民主化されるという考えは間違いだ。香港と中国の政治状況は違う。
香港は中国本土より先に民主化が進むことになるが、その民主化自体を中国指導者が認めなければ、いくら香港側が民主化に尽力しても進まない。香港は自由の表現を享受できる。違法行為はしないよう耐えることも必要だ。
――尖閣諸島(中国名・釣魚島)が中国領であることを主張する香港の民間組織「保釣行動委員会」にも参加している立場だが、今後の計画はどうか。
中央政府が積極的に釣魚島の主権を主張しているので、民間組織ができる活動内容が薄れてきている。香港と台湾にとって重大問題は、自分の船がそれぞれの海域から出ることが禁止されていることだ。問題は、船を出航できるかどうか、最終権限は中国政府にコントロールされていることだ。私は徐々に活動を弱めていく予定だ。この問題は領土主権というより戦後処理の問題だ。今年は戦後70年の節目であり、その観点が重要だ。
(香港・深川耕治、写真も)






