中国の動向 心の拠り所求める指導者たち
香港誌「前哨」編集長 劉 達文氏に聞く(上)
中国の習近平政権は汚職取り締まりを断行するため、江沢民派の周永康氏が無期懲役となり、胡錦濤派の令計画氏が拘束されるなど、習近平総書記の求心力が強まる一方、江沢民派、胡錦濤派の反発も強まり、北戴河会議で激論が展開されている。中国政府の動向について香港月刊政治誌「前哨」の劉達文編集長に上・下2回にわたって聞いた。(聞き手・深川耕治、写真も)
出世の不安、カリスマに心酔/言論統制で逆に神格化も
信奉対象に多い仏教/地位保全の方便に利用
 
――中国共産党の周永康前中央政法委員会書記が無期懲役の実刑判決を受けた事件で周前書記が6件の国家機密を曹永正という人物に流したとし、裁判所は「特別重大な結果をもたらさなかった」と認定する不可解な結末となった。中国メディアは曹氏が気功の名人で予言を得意とする実業家と報じているが、実際はどんな人物か。
非常に神秘的なベールに包まれているが、幼少期から天才で聡明であり、特別な能力がある勉強家。中国内外のネット上で吹聴されているようなカリスマであるかといえば、そうでもない。神秘化して祭り上げようとする動きは、情報公開が規制されている中国でよくある現象だ。
――神秘的な特別な能力があるとされる人物を誇大化して祭り上げるような動きは中国内では他にもあるのか。
中国・アリババ社(阿里巴巴集団)の創業者であり、現会長の馬雲(ジャック・マー)氏は中国の江西省の気功師・王林氏を崇拝し、山にこもって修練したりしている。中国は言論統制が強いために特別な能力で病気を治したり、風水でビジネスが成功したりする人物が現れると、うわさがすぐに広まり、その人物を神格化させてしまう。
急速に事業が発展し、成功した馬雲氏でさえメンタル面では自信がない。大企業の経営者であれ、政治指導者であれ、心の安寧を得られる帰属感を持ちたいという思いは中国で共通している。
――胡錦濤政権時代、最高指導部にいた周永康氏もメンタル面の不安をカバーするために曹永正氏に依存していたということか。
中国が改革開放路線となり、競争社会になって、汚職があれば逮捕されて没落していく。周永康氏も心理的なバランスを求め、メンタルの脆弱な面を曹永正氏と接することで心の拠り所にした。
――中国最高指導部には、周氏に限らず、精神的に心の拠り所となる人物に頼るケースはあるのか。
実は多い。最高指導部でなくても、党中央の幹部、地方幹部でも根深く広がっている。例えば、薄煕来・元重慶市党委書記は12年間、大連市長や同市トップの党委書記を務めていたが、なかなか党中央の要職昇格ができず、悩んでいた。
台湾の風水師を呼んで市庁舎周辺の風水を鑑定してもらうと、市庁舎の正面にある第2次世界大戦勝利記念の兵隊銅像が銃を持って市庁舎に向かっている姿が風水上、不和の現象が起きて良くないので旅順に移動させる指導をした。
実際に移動させると、薄煕来氏は直後に遼寧省長に昇格し、風水師の指導に全幅の信頼を寄せるようになった。広東省幹部が収賄容疑で双規(党による無期限拘束・取り締まり)処分となりながら、気功師の王林氏に相談して指導通りに動いて起訴されないまま無罪になったケースもあり、気功師が神格化されていくようになる。
中国の指導者は仏教を信奉するケースが多い。純粋に心酔するのではなく、自分の地位を保全するための方便として使っている。平常心で執務できない場合、風水師や気功師に頼るケースが多い。毛沢東は瞑想の世界で同じことを行った。
――周永康氏の裁判は5月22日に非公開で初公判を開きながら外部に一切の情報を漏らさず、いきなり無期懲役判決を6月11日に発表する異例づくしの裁判だった。貴誌の内幕報道通り、裁判前の交渉で周被告が身内の罪を回避させ、全部自分の起こした罪にしてほしいとの意向が働いたからか。
上訴もせず、非公開で行われたことから見ても、裏ではそのような秘密交渉があったと思われてもおかしくない。確かな情報筋からの情報だ。











