参院選、とりあえず安倍政権信任

政治ジャーナリスト 細川 珠生

残り任期で改憲実現を
議論促進へ“譲る”度量必要

細川 珠生

政治ジャーナリスト 細川 珠生

 参院選挙は、その結果がいかにあれ、衆議院で多数を得る勢力が政権を担うため、政権選択の選挙ではないと言われる。遡(さかのぼ)れば、戦後にできた参議院は、「緑風会」に象徴される、今で言う学識経験者等が務め、多くは無所属議員であった。その後、政党化が進み、最終的には、参院の選挙制度に比例代表制が導入された1983年の時点で、「良識の府」という本来の参議院の存在意義は薄れ、単なる政局(権力闘争)に組み込まれる勢力に成り下がった。参院選そのものが政権交代を実現する選挙ではないとはいえ、政権、および政党を評価する選挙であり、良くも悪くも、衆議院選と共通する意義はある。

貧弱だった野党の政策

 その前提から今回の選挙を見ると、定数3増でありながら、自民党は改選議席を9も減らした。また選挙前には1議席とはいえ、単独過半数を得ていたのにもかかわらず、過半数割れとなった自民党には、厳しい選挙結果となったはずである。立憲民主党や日本維新の会は議席を増やし、政治団体の「れいわ新選組」や「NHKから国民を守る会」が議席を獲得した。激戦区の1人区で野党系が競り勝った選挙区、複数当選を目指した自民党が単独当選に終わった選挙区など、大きな政局になる状況にはないものの、個別の選挙結果を見ていると、安倍政権に対し、大手を振って信任したとは言い切れない国民の心理をうかがうことができる。

 しかしながら、3年前の参院選と比較すると、与野党の獲得議席配分はあまり変わらない。自公で1議席増、当時は民進党であった立憲・国民に、維新を加えても3議席減、共産は1増、社民は変わらず、である。つまり、立憲が議席を増やしたといっても、野党第1党としての存在感は、前回選挙で野党第1党であった民進党の方がはるかに大きく、政権への批判、不満、不信を抱える有権者が、右往左往していることも読み取れる。

 そう考えると、野党の政策や攻め方は、今の政権与党の前に、あまりに貧弱であったと言わざるを得ない。今回の選挙結果は、当面(がいつまでかは分からないとはいえ)、「安倍政権でよい」という判断をした国民が多数であったということを表している。有権者の半数以上が選挙に行かないという異常事態とはいえ、有権者として必死に意思表示をしようとすれば、選挙に行くはずである。そう考えると、投票に行かなかった人は、とりあえずは安倍政権でよいと受け取られても反論できまい。

 しかし議席を減らしたことを考えれば、積極的な支持ではない。不安要因はある。国民の不安や不信感がどこにあるのか、野党はもっと丁寧にそれらを把握し、政策を作るべきである。もちろん、それは、政権党である自民党にこそ求められている。しかし、自民党ではなく野党にその期待があるとすれば、長期政権の中で軌道修正がもはやできなくなっている事実があまりに多いからである。「身を切る改革」と言いつつ、合区で不利にさせないために、比例で特定枠を設け、議員定数も増やすというとんでもないご都合主義や、少子化現象が止まらないのに少子化対策を変えようとしないことだけを見ても明らかである。

まずはCM規制議論を

 しかしながら、とりあえずとはいえ、政権を任せてもよいという判断をした国民のために、政権は何をするのか。まず安倍総理の、自民党総裁としての残り2年の任期中に必ず成し遂げなければならないのは憲法改正であろう。そうであるならば、憲法審査会の硬直状態を打開するために、自民党がある程度、野党に譲らなくてはいけない。私の取材では、野党が議題にしたい国民投票に係るCM規制についての考え方には、自公と隔たりがある。だからこそ、議論すればよいのである。野党の一部には他の思惑もあるかもしれないが、そこは与党が大きく構えて、ひとまずはCM規制からでも議論を始めればよいのではないだろうか。

 領土問題も拉致問題も、もちろん必ず解決しなければならないが、相手があることでもある。しかし憲法は日本だけでできることである。安易に総裁任期を実質延ばすことに甘えていては、絶対にいけない。どうすれば前に動くか、力あるもの(政権党)こそが、“譲る”度量が必要だ。

(ほそかわ・たまお)