上半期の安倍外交を振り返る
日本国際問題研究所特別研究員 遠藤 哲也
日米同盟強め対中牽制を
冷静な対応必要な日韓関係
今年の上半期を振り返って、下半期の見通しを述べてみたい。結論を先に言えば、安倍外交は長期安定政権を基礎に、かつ総理自身の積極的な性格のおかげで、総括すれば良くやっていると思う。しかし、今後を見れば、難問が山積している。
現在の日韓関係は経済交流、人的交流にもかかわらず、反日感情を煽(あお)る団体に便乗する一部マスコミ、そしてコントロールできない、あるいはしようともしない政治が非常に悪化している。従軍慰安婦問題、徴用工問題など問題は枚挙にいとまがない。また、北朝鮮という共通の脅威の対象が存在したが、この認識も怪しくなっている。従って、ここ当分、文在寅政権の下で、日韓関係が良くなる見通しについては悲観的である。
日本はどうすれば良いか。一言で言えば、できることからやっていくことだろう。政治レベルでは、冷静沈着な行動が必要であるし、要人の失言、暴言などもってのほかであるし、火に油を注ぐようなことは絶対に避けなければならない。民間交流の拡大は続けていく必要がある。
首脳マターの拉致問題
北朝鮮問題の決め手は米朝関係である。ところが、その米朝関係は2月末のベトナムでの第2回首脳会談が物別れに終わってしまって、次期会談の目途(めど)は立っていない。これは米国の主張する北朝鮮の「完全非核化」と北朝鮮の「象徴的非核化」の根本的対立に両国の最高首脳を直接、巻き込んでいるために面子(めんつ)の問題もあり、解決は容易ではない。
拉致問題は安倍外交の最優先事項だが、解決は容易なことではない。近年、米国をはじめ、諸外国からの側面支援は力強いのだが、最終的には日朝2国間の問題である。
この問題の解決は首脳マターであるが、かといって直ちに首脳会談に飛び付くには大きなリスクが伴う。首脳会談に先立って、用意周到な水面下での、それも両首脳に通じる人物間での秘密裏のコンタクトが不可欠だが、このプロセスはどうなっているのか。焦りは禁物である。
日米関係は、安倍・トランプの親密な個人的関係もあって、極めて良好である。しかし、トランプ米大統領の独特のやり方には、日本としてついていけないところがある。米国第一主義、2国間関係優先、パリ協定からの離脱、環太平洋連携協定(TPP)離脱、等々である。これに対して、日本は安倍・トランプの友好関係をベースに建設的な提案をすべきである。これは、米国を孤立させないためにも必要である。大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議は安倍外交の正念場と言えよう。
日米両首脳が良好な関係であるからと言って、米国が重視する日米貿易交渉で、米国が手心を加えたりすることは決して期待できないと覚悟すべきである。
世界第2の大国、日本にとっては最大の貿易相手である中国とは新しいコレクトな関係を樹立し、維持することが必要である。
しかし、心すべきは中国の外交・軍事戦略である。中国は日本にとって、安全保障面での最大の潜在的脅威である。中国は「中華民族の偉大な復興」が最大の目標であり、東シナ海、南シナ海への強引な進出、「一帯一路」構想であり、核戦力の強化であり、中国流の国際秩序の確立である。
上記二つを日本として、いかに両立していくか。何よりも必要なのは日米同盟の強化だが、合わせて中国を牽制(けんせい)する外交的取り組みが必要である。「自由で開かれたインド太平洋構想」は、その戦略的対応策の一つであり、安倍外交のイニシアチブを期待したい。
焦りは禁物の日露交渉
日露平和条約の提携は、戦後処理で残された最大の外交案件で、安倍総理にとっては、最優先事項の一つであるが、北方領土交渉は安倍外交にとって鬼門になりかねない。
そもそも、外交交渉に期限を設けるのが良いのか否か。外交交渉には、焦りは禁物である。また、よく言われる6月大筋合意は一つの通過点ないし節目と考えるべきであろう。
(えんどう・てつや)






