日朝接触、昨年から北京で

 今年7月ベトナムで日本と北朝鮮の当局者が極秘接触していたという米紙報道を受け、日朝関係の新たな動きにつながるのか関心が高まっている。最大の懸案である日本人拉致問題の解決などに向け糸口を見いだせるのだろうか。
(編集委員・上田勇実)

北は日本の条件見極めか
影落とす米朝優先

 報道によると、接触していたのは北村滋内閣情報官と金聖恵統一戦線部策略室長。詳細は不明だが、北朝鮮による日本人拉致問題が議題に上がったとの見方が出ている。

ポンペオ米国務長官(左)と金英哲朝鮮労働党副委員長

7月7日、平壌で2日目の協議に入るポンペオ米国務長官(左)と北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長(AFP時事)

 各紙が毎日伝える「首相動静」によると、北村氏は7月の1カ月間、週末を含め実に半分の15日、回数にして16回にもわたり安倍晋三首相と面談した。これは谷内正太郎国家安全保障局長の9日(13回)をはじめ他の秘書官たちと比べ断トツで多い。2人の接触が事実なら、それをめぐり綿密に首相に報告したり指示を仰いでいたことをうかがわせる。

 日朝関係筋によると、この接触以外にも日朝間のチャンネルは外務省や官邸主導など複数あり、実際には昨年から北京で稼働していたという。北村氏起用はそれらが行き詰まっていたためとみられる。

 ただ、相手方の金氏は対韓国政策を統括する統一戦線部で研究、分析などを行う策略室の責任者で、対日交渉とは直接関係がない。金氏は主要な外交舞台でお馴染(なじ)みの顔となったものの、トップダウン式である程度の権限のある北村氏に比べ「格下の小者」(政府関係筋)と評する声も聞かれる。

 全ての拉致被害者の早期帰国を急ぐ日本政府に対し、北朝鮮は6月に米朝首脳会談を実現させ、体制保証や制裁解除を引き出すのが最優先課題。そんな北朝鮮が日本との接触に応じたのはなぜか。北朝鮮問題に詳しい韓国の元公安筋はこう指摘する。

 「まずは日本の意図を把握。次に自分たちに有利な条件を日本側が示すのか見極めた上で交渉を進めるはず。膠着(こうちゃく)状態にある米朝関係を好転させることにも利用するだろう」

 今回、米紙は日朝接触を報じながら事前に連絡を受けなかったトランプ米政権が不快感を示したと指摘した。日本の極秘接触が米国発で暴露されたこと自体、それを物語る。前述の日朝関係筋は米国の思惑を「米朝が最優先であり、日本は余計な動きをするなというメッセージ」と指摘する。米朝優先が日朝交渉に影を落としかねない状況だ。

 時同じくして北朝鮮を旅行中だった日本人男性、杉本倫孝氏(39)が拘束され、約半月ぶりに釈放されるという事件が起きた。これも詳細は明らかになっていないが、拘束者を外交カードに利用することが多い北朝鮮が比較的、早い段階で釈放した背景について米朝関係への悪影響を心配し日本に配慮したとする見方がある一方、日本から何らかの譲歩を引き出す狙いがあるとの観測も出ている。

 安倍首相は先月、「最後は私自身が金正恩(朝鮮労働党)委員長と対話し、核・ミサイル、何よりも重要な拉致問題を解決する」と述べ、日朝首脳会談に意欲を示した。しかし、当事者と周辺国の思惑がさまざまに絡み合う中、その道筋は見えていない。