健康増進法改正案、国の受動喫煙対策後退

例外店大幅増、実効性も課題

 望まない受動喫煙による健康被害を防ぐため、罰則を設け対策を強化する健康増進法改正案が参議院で審議中だ。2020年の東京五輪・パラリンピックを見据えたものだが、厚生労働省による当初案と比べ内容が大幅に後退したとの批判があり、実効性の担保にも課題が残る。一方、大会開催都市の東京都は独自の条例を制定。国よりも厳しい規制に乗り出した。
(政治部・亀井玲那)

800

 当初の厚労省案は、小中高校や医療施設は敷地内禁煙、飲食店も原則屋内禁煙とし、例外は30平方メートル以下のバーやスナックを想定していた。しかし、一部議員や飲食関連業界はこれに反発。最終的な改正案では、例外は既存の飲食店のうち客席面積が100平方メートル以下の店舗とされた。これらの店舗は「喫煙可能」の表示を掲げれば喫煙が認められる。小規模店は対策にかかるコストの負担が難しいことなどを考慮したものだが、例外に該当する店は全体の約55%に上ることから原則と例外が逆転するとの指摘もある。また、学校や病院などは敷地内禁煙としつつも、屋外に喫煙場所の設置を認め、野党議員や医療関係者からは批判の声も上がっている。

 政府案が基準とする100平方メートルは、神奈川県の受動喫煙防止条例を参考にした面もある。同条例は全国に先駆けて10年に施行。飲食店などには分煙を認め、客席面積が100平方メートル以下の店は努力義務にとどめるなど、規制内容は厳しくないが、違反者には過料を科す罰則を設けた。しかし、毎年1000件前後の違反が確認されながら一度も罰則の適用がなく、実効性には疑問の声も上がっている。

 自身が県知事時代に同条例の制定に取り組んだ希望の党代表の松沢成文参院議員は5日、参院厚生労働委員会で「神奈川県の例は大失敗だった。100平方メートルはあまりにも広く、もっと厳格に区切らないと実効性は保てない」と指摘。「罰則が適用されなければ実効性と抑止力が失われる。各自治体の保健所と連携を密にする必要がある」とも述べ、厳格な適用を求めた。厚労省は「現場で必要な指導や対応ができるよう、基準や進め方のガイドラインは適宜適切に検討する」としているが、保健所等との具体的な連携方法は示されていないため懸念も残る。

 国の法案に厳しい指摘が相次ぐ一方、五輪・パラリンピックの開催都市である東京都は6月27日、受動喫煙防止条例を賛成多数で成立させた。都の条例では、飲食店は原則屋内禁煙で、例外は従業員のいない家族経営などの飲食店のみ。都内飲食店の84%が規制対象となる。また、小中高校や幼稚園、保育所などは敷地内禁煙で、屋外でも喫煙所は設置不可とするなど、政府案よりも厳しい規制が盛り込まれた。

 世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)はたばこのない五輪を推進しており、各開催都市はさらに厳しい対策を取ってきた。条例制定に当たり飲食関連業界は抗議デモを行うなど反発を強めたが、小池百合子都知事は「ホストシティとして、たばこのないメガイベントにふさわしい内容にしていく必要がある」とし、対策を進める姿勢を示している。