トランプ批判が逆効果に

米コラムニスト マーク・ティーセン

左派の作戦は裏目に
大統領の支持率下がらず

マーク・ティーセン

 民主党は、議会とホワイトハウスを取り戻すために新理論を展開している。その理論によると、1996年大統領選でビル・クリントン氏勝利を後押しした「サッカーママ」や、2004年にブッシュ大統領(子)の当選を助けた「ナスカーパパ」のように、トランプ大統領は、トランプ氏が特に好きなわけではないが、ヒラリー・クリントン氏が嫌いな「#ネバー・ヒラリー(ヒラリーは駄目)」有権者のおかげで当選したという。ニュースサイト「アクシオス」によると、民主党は「トランプ氏支持の有権者の20%は出口調査で、トランプ氏は好きではないと答えた」ことに着目し、この不本意ながらトランプ氏を支持した有権者が18年中間選挙で「ブルーウエーブ(民主党旋風)」を後押しし、20年大統領選でトランプ氏を敗北に追いやることを期待している。

 この理論には一つ問題がある。左派はトランプ氏を依然として激しく非難しているが、これら有権者はトランプ氏から離れていないという点だ。逆に、民主党によってトランプ陣営にさらに深く入り込んでいる。

◇左派から激しい非難

 この数週間、左派からのトランプ非難の嵐は一定の水準を超えた。まず、トニー賞授賞式で俳優ロバート・デ・ニーロ氏がトランプ氏を激しく罵倒する演説を行った。次いで、サマンサ・ビーさんが自身のテレビショーでイバンカ・トランプ氏を「無神経な女」と非難した。レストラン「レッド・ヘン」のオーナーらが、サンダース大統領報道官を、トランプ氏の下で働いているという理由で店から追い出したかと思うと、メキシコ料理店ではニールセン国土安全保障長官が罵声を浴びせられた。民主党のウォーターズ下院議員は、左派活動家の集まりで、トランプ政権の職員らを「絶対に懲らしめる」と訴え、火に油を注いだ。メディア、議会、ツイッター上にもトランプ氏の敵は無数にいる。南部国境での親子の引き離しをナチス・ドイツに例えたりしている。タイム誌は、表紙に、泣いている移民の少女を無表情で見下ろすトランプ氏を掲載した。母親から引き離された少女と言いたいようだが、その後、この少女は母親から引き離されていなかったことが明らかになった。そして今、トランプ氏の最高裁判事指名への阻止の動きが始まっている。指名はまだ行われていないのにだ。

 リベラル派は、不本意ながらトランプ氏に投票した20%の有権者が、このような野放図な批判に乗ってくると思っているようだ。しかし、この有権者らは、トランプ氏にではなく、トランプ氏を批判する人々に怒っている。トランプ氏に対する怒りに任せた憎悪が、反射的にトランプ氏擁護に向かわせている。

 現実はそれほど単純ではないということだ。ニューヨーク・タイムズ紙は最近、熱狂的でないトランプ支持者数十人にインタビューし、トランプ氏批判がなぜ、トランプ氏支持につながっているのかについて聞いた。タイムズ紙は「ジーナ・アンダースさんは、どのような心理が働いてきたのかはよく分かっている。トランプ大統領は、反発を招くようなことを突然、言ったり、したりする。アンダースさんは、それに対するトランプ氏の対応を必ずしもいいとは思っていない。どうして反発が生まれるのかも分かっている」と指摘した。

 しかし、アンダースさんは、「クローゼットの中の『再びアメリカを偉大な国に』の書かれたグッズが、トランプ氏支持に向かわせているわけではなく」、トランプ氏への「行き過ぎた」非難を聞くと、「怒りの気持ちが起き、トランプ氏をこれらの非難から守りたいという気持ちになる」と話している。トニー・シュランツさんも同じ考えだ。「完全ではないし、愚かなところもある。でも、飽きもせず、ずっとトランプ氏を追い掛けている」

 これが、民主党が取り戻そうとしている有権者の本音だ。逆のことが起きている。世論調査にもそう出ている。

◇労働者階級を無視

 2週間前、ギャラップの調査でトランプ氏支持は45%に達した。就任以来、最高だ(先週には41%に減少した)。共和党員のトランプ氏支持率は、87%と記録的な数字に達し、01年9月11日の同時多発テロ直後のブッシュ大統領(子)の支持率と並ぶ水準だ。つまり、左派のトランプ氏攻撃は、同時多発テロと変わらないほどの効果を挙げているということだ。

 礼節、品性、良心に訴えても効果が上がらないなら、政治的現実主義に訴えることになろうか。民主党員は、ヒラリー氏が出馬しない選挙なら投票所に行かない#ネバー・ヒラリー有権者のせいで敗北したと考えているようだが、それは自己欺瞞(ぎまん)だ。民主党が負けたのは、沿岸地域に住むリベラル派エリートの党が、普通の中産階級の国民から離れたからだ。工場閉鎖、失業、家庭を崩壊させる医療用麻薬オピオイドの蔓延(まんえん)に苦しむ労働者階級の有権者を無視したからだ。有権者は16年の選挙で、民主党は労働者を見放したが、トランプ氏は目を向けてくれたと思った。

 トランプ氏批判を続けても、これらの有権者を取り戻すことはできない。できることがあるとすれば、民主党はまだ分かっていないし、労働者の心をつかんでいないという有権者の考えを受け入れることだ。左派はトランプ氏への侮蔑で毒気を吐き、いい気持ちかもしれないが、トランプ氏にとってはこれ以上ないほどの追い風だ。そのおかげて、再選される可能性も十分にある。

(7月4日)