朝鮮戦争 安保理勧告に応じた多国籍軍

詳解 集団的自衛権 安保法制案の合憲性(8)

日本大学名誉教授 小林宏晨

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 集団的自衛権の最も典型的な用例として、朝鮮戦争と湾岸戦争を上げる。

 朝鮮戦争は、1950年6月25日、中華人民共和国ではなく、中華民国(台湾)が国連代表であることをソ連が不満として、国連安全保障理事会をボイコットしている最中に勃発した。米国はこの間隙をぬって、ソ連抜きの4常任理事国(米、英、仏、中華民国)で、三つの安保理決議を成立させた。

 6月25日決議 この決議で注目される点は、安保理が「武力攻撃」を指摘することによって暗黙裡に安保理の要請に応ずる加盟国の行動が国連憲章第51条(自衛権)下の行動となる可能性を前提とし、さらにこの「武力攻撃」が「平和の破壊を構成する」と指摘することで、暗黙裡に国連憲章第39条(安保理の任務)に従った行動となる可能性を前提としている。

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韓国ソウル北部の幸州で戦車の前にたたずむ9歳の少女。背中の弟以外の家族は全員死亡した=1951年6月9日(UNP hoto/ UnitedStates Navy)

 また、「敵対行為の即時停止と、北朝鮮当局に対する、北緯38度線までの兵力の撤退」の要請は、国連憲章第40条の意味での「事態の悪化を防ぐ為の暫定措置」の要請であることが推定される。さらに決議は、韓国が国連憲章第51条の意味での自衛権の適用下にあることを前提としており、安保理がこの条項(個別的・集団的自衛権)を国連の非加盟国(韓国は当時非加盟国)にも適用できると解釈していることを示している。しかも「すべての加盟国に対し、この決議の執行において、国際連合に援助を与え、かつ北朝鮮当局への援助を慎む事」を要求することによって、暗黙裡に国連憲章第2条第5項の適用を前提としている。

 6月27日決議 安保理は前回決議を指摘した後、「武力攻撃を撃退し、かつ、この地域における国際平和と安全を回復するに必要な程度、韓国に援助を提供することを国連加盟国に勧告」した。

 ここで注目される点は、北朝鮮の武力攻撃の撃退が国連加盟国に勧告されている事実である。つまりここでは、暗黙裡に国連憲章第51条の集団的自衛権の適用、つまり武力の行使が「勧告」されている。当然に、安保理事会の武力攻撃支援「勧告」は、「決定」ではないので、加盟国が国連憲章第25条もしくは第48条に従って公的に拘束されることはない。

 7月7日決議 この決議で注目される点は、「武力攻撃に対して自衛する韓国を援助」するとの表現によって、より明確に国連憲章第51条の「集団的自衛権」の行使を加盟国に勧告している事実、ならびに北朝鮮に対して武力行使する軍の司令部に国連旗を使用する権限を与えている事実である。

 朝鮮戦争におけるいわゆる「国連軍」は、国連憲章第51条の「集団的自衛権」を適用する行動を行う限り、形式的に国連の旗を掲げても、実質的には国連安保理の任務を遂行する「国連軍」とは言い得ない。つまり、安保理の勧告に応じた多国籍(同盟)軍と言うことになる。