従来見解の問題 自衛権発動3要件適用せず

詳解 集団的自衛権 安保法制案の合憲性(14)

日本大学名誉教授 小林宏晨

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 従来の政府見解の問題点を挙げれば、第1に、自衛権発動の3要件が個別的自衛権ばかりか、同時に集団的自衛権にも適用される事実を全く考慮せず、独断的に集団的自衛権の適用を排除している。

 政府説明ではなぜに日本国憲法が自然権たる個別的自衛権の適用を許容し、なぜに主権国家の自然権たる集団的自衛権の適用を許容しないのかに対する説得的説明に欠けている。

 第2に、国際法の中で非常事態における自国民救出も自衛権の適用ケースと見なされ、そこでは双務性(相互主義)の原則が厳然と支配している(集団的自衛権の適用ケース)事実を無視している。この場合、例えば米国旅客機による邦人輸送の際における自衛隊戦闘機による護衛、あるいは、米艦船による邦人輸送における自衛隊軍艦による護衛等々が考えられる。

 第3に、日米共同作戦としての(台湾海峡を含む)1千カイリシーレーン(海上交通路)防衛あるいは、場合によっては太平洋、インド洋、ペルシャ湾防衛の可能性及び必要性を考慮していない。

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米海軍主催の多国間共同訓練(リムパック2014)における海自と米海軍の艦艇(平成27年版「防衛白書」)

 第4に、集団的自衛権が一般国際法及び国連憲章で主権国家の「自然権=固有の権利」として重要な位置付けが行われている事実を看過、軽視している。国連加盟国の中で自国の集団的自衛権の適用可能性を否定している国があろうか。

 一般国際法における集団的自衛権の根拠とされるパリ不戦条約(1928年)の前文では、この条約に反して戦争に訴えた国家がこの条約が供与する利益が拒否される旨が宣言されている。締約国がこの条約義務に違反して戦争を開始した場合、全ての締約諸国が違反国に対して自衛に訴える権利(集団的自衛権)を留保していることになる。

 第5に、朝鮮戦争と湾岸戦争で侵略軍に対応したいわゆる同盟軍は、厳密には国連軍ではなく、集団的自衛権を行使した国連加盟国の軍であった。しかも国連成立以来70年を経たこれまでの傾向をみるならば、少なくとも短中期的にはその傾向が継続しよう。

 第6に、国連憲章には未だに「敵国条項」(第53条及び第107条)が存在する。国連常任理事国の一つが、第2次世界大戦中の敵国(日本を含む)に対し、「この敵国における侵略政策の再現に備える地域的取り決め」に基づくと称する強制は不可能ではない。この場合のほぼ唯一の救済措置は、集団的自衛権の適用に基づく反撃である。

 主権国家は、その国民の生命、財産及び自由を保障する責任がある。その限りにおいて国家は、主権国家の自然権たる(個別的及び集団的)自衛権を放棄できない。しかも放棄できない自衛権を「全面的に適用できない」との結論は、この権利の放棄と同じ結果をもたらす。状況に応じて限定的あるいは全面的に適用可能にする方が合理的憲法解釈と言わねばならない。