法的制限 国際司法裁判所の見解に疑念も

詳解 集団的自衛権 安保法制案の合憲性(7)

日本大学名誉教授 小林宏晨

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 現在では武力攻撃は国連憲章違反とされている。しかも国連憲章第103条は「国際連合加盟国のこの憲章に基づく義務と他のいずれかの国際協定に基づく義務とが抵触するときは、この憲章に基づく義務が優先する」と規定する。

 同条の解釈について争いがないわけではないが、国連憲章からする義務の優先的地位そのものについては争いがない。

 ニカラグア・ケースにおいて、国際司法裁判所は諸国が国連憲章あるいは慣習国際法においても、武力攻撃を構成する行為への対応以外に、集団的自衛で武力を行使する権利を有しないことを強調した。

 国際司法裁判所はさらに、国家が集団的自衛の権利を状況の自前評価に基づいて行使してはならないと命じている。先ずは武力攻撃の直接の犠牲国がこの種の攻撃の対象となった視点を形成し、かつ宣言しなければならない。これに加え、支援要請は犠牲国によって行われなければならない。この種の要請が欠落している場合、第3国による集団的自衛は排除される。

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ニカラグアの反政府勢力「自由の戦士」への支援を呼び掛ける声明を発表したレーガン大統領=1985年2月(UPIより)

 国際司法裁判所の前記の見解には以下の諸根拠からして疑念が提示される。

 第1に、歴史的に1938年3月、ドイツによるオーストリアの軍事併合に対し、オーストリアは一切の抵抗を行わなかった。それでもなおドイツの軍事行動の違法性(具体的にはパリ不戦条約違反)は排除できない。

 第2に、ある国はパリ不戦条約に違反した場合、条約が提供する保護を享有できない。つまり、第3国は条約違反国に対して武力反撃を遂行できる。

 第3に、集団的自衛権は自衛のための一形態であり、当事国は第3国ではなく、集団的自衛の権利を行使する当事国である。

 第4に、国連の集団安全保障制度の不完全性ゆえに、集団的自衛権に基づく補完制度が重要視されている現状で、いたずらにこの制度を制限する試みは必ずしも成功しない。

 第5に、集団的自衛の権利は、あくまでも権利であって、相互軍事支援条約がない限り、当事諸国の義務とはならない。この権利の中核機能を麻痺させるほどの法的制限は望ましくない。

 自衛権の行使に先立つ3要件、つまり必要性、比例適合性、即時性―は、個別的自衛と同様に、集団的自衛にも適用要件とされる。この点は、ニカラグア・ケースで国際司法裁判所によって強調されている。

 さらに国連憲章第51条は、自衛権を行使する国家に対し、安全保障理事会に直ちに報告する義務を課している。この報告義務の確立の中で第51条は、個別的自衛と集団的自衛間の区別を行っていない。その点は、自衛の措置に訴えるそれぞれの国家がこの種の報告を提出しなければならないとするニカラグア・ケースの判決から生ずる。