憲法の変遷論 憲法解釈が決定的な役割果たす

詳解 集団的自衛権 安保法制案の合憲性(10)

日本大学名誉教授 小林宏晨

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 日本国憲法の平和主義は、その前文と第9条に基づいており、現在でも与野党を問わず、平和主義そのものに反対する政党は存在しない。

 しかも日本の憲法学者の圧倒的多数は、憲法解釈の帰結として、日本の「非武装中立」を結論付け、さらにその中の多数が憲法政策的に、憲法解釈上の「憲法変遷」にも、「憲法改正」にも反対している。

 筆者の解釈的結論は、前記の双方と対立する。その第1の根拠は、国際法的に「非武装」と「中立」が相互に相容れない関係にある事実。第2の根拠は「憲法の変遷」は、憲法学の中で原則的に「憲法改正」の前段階として重要な位置付けがなされている事実だ。

 人間の性格と同様に、憲法も持続的傾向と変化の2つの傾向を持つ。憲法の持続的傾向が強調される場合には、その改正の難しさ(例えば、日本国憲法では両議院定数の3分の2+国民投票での過半数の賛同、ドイツ基本法では連邦議会・連邦参議院定数の3分の2の賛同)によって、他の諸法律と区別される。

 他方、全ての憲法に内在する変化の傾向は、不断に表明されている。従って、全ての実定法は憲法を含めて、その本性からして変化するものであり、柔軟性を条件づけられている。

 憲法は暗黙裡に、「事情変更の原則」の留保を前提としている。この原則は、全ての憲法の不可欠な構成要件であり、いかなる憲法規定によっても排除され得ない。その意味で「契約順守」の原則と同様の機能を有している。

 憲法における事情変更の要請は、憲法に規定される方式による憲法改正、または革命やクーデターによる現行憲法の廃止もしくは新憲法制定のほか、憲法変遷という形で実現される。

 憲法変遷とは、憲法の文面の変更なしに実定憲法規範の意味を本質的に変更することであり、憲法改正や憲法違反とは明確に区別する必要がある。

 憲法改正は、憲法自体に規定されている方法で憲法条文を変えることであり、憲法違反は憲法の文面と意味に対する意識的違反行為だ。これに対し憲法変遷は、違法意識が存在しないで本来的憲法条文の文面の意味の変更である。

 憲法解釈は、憲法変遷において決定的な役割を果たす。つまり暗黙の憲法変遷は解釈を通して実現される。その古典的例証は米国憲法の歴史である。この拡大解釈は最短の、従って最も賢明な米国憲法の若さを保ち続けた。暗黙の憲法変遷の中で同憲法は不断に再生された。

 憲法解釈の担い手は、そのために憲法によって招聘されている諸機関である。憲法の解釈機関は最終的に裁判所であり、従って憲法変遷の本来的担い手であり、監視者、警告者であり有権解釈の主要な担い手だ。

 一方、法は政治的なるものの機能であり、政治行動の結果である。従って、裁判官による解釈と並んで政治家が行う全ても憲法解釈の一部といえる。

 政治家はその意味で憲法の保護者であり、有権解釈の先兵であり、個々の規範が政治目的を充足するだけではなく、その背景にある倫理的要請をも充足することに配慮することが憲法の保護者の義務でもある。

 日本国憲法 第九章改正 第96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。