注意要する「こども庁」審議
麗澤大学大学院特任教授 高橋 史朗
自民勉強会に左翼活動家
当初案の名称から「家庭」削除
櫻井よしこ氏が毎月連載している産経新聞のコラムで、「自民左傾化 危うい兆候」「『家族』壊す保守政治家」と題し、「極左の運動家が首相官邸や保守政治家に深く食い込んでいる」と警告している。
櫻井氏が「謎解きの端緒となる」「戦慄の書」と述べた『実子誘拐ビジネスの闇』(池田良子、飛鳥新社)によれば、人権派左翼弁護士と認定NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長の赤石千衣子氏らが連携して、子供を片方の親(とりわけ父親)から切り離し、公権力で養育費を取り立てる仕組みが築かれつつあるという。
「家族」否定論者が講演
赤石氏は稲田朋美衆院議員の変心に大きな影響を与えた人物で、朝日新聞論壇委員、法務省法制審議会家族法制部会委員に就任しているが、次のように明言した「家族」「家庭」否定論者である。
「家庭」を尊重し、「家庭」を社会の単位とする捉え方では、家庭における女性に対する暴力は見過ごされてしまう。戦前の「家」制度の下での忍従の記憶が女性たちに強く残っていて、女性たちが大規模なデモを行い、次の選挙で自民党を少数政党に追い込んだという歴史がある(平成17年10月30日講演「平和憲法が危ない!:家族はお国のためにあるんじゃない」)。
池田氏によれば、赤石氏が共同親権制度導入に反対する理由は、①一夫一婦制という家族制度破壊に単独親権制度が有効であり、②共同親権制度を導入したら、児童扶養手当というシングルマザー利権(離婚家庭に毎年4000億円超を支給)が失われる恐れがあるためであるという。
山田太郎・自見英子の両参院議員が共同事務所を設置して開催してきた「チルドレン・ファーストの子ども行政の在り方勉強会」の第15回勉強会で赤石氏が講演し、実子誘拐擁護・離婚後共同親権反対を主張する文書を配布した。
山田太郎議員のホームページによれば、政府が準備に着手した「こども庁」の当初の案は「子ども家庭庁」であったが、被虐待経験のある女性が同勉強会で講演した際、虐待を受けた子供たちは「家庭」という言葉で傷つくから名称を変えてほしいという指摘を受けたからであるという。
このような不当な理由で「家庭」を削除する自民党議員の不見識さには開いた口が塞(ふさ)がらないが、第15回勉強会では「包括的性教育」についての講演も行われている。これはジェンダー平等や性の多様性を強調する性教育であるが、2013年にバンコクで開催された国連アジア太平洋人口会議において、包括的性教育という用語を盛り込んだ閣僚宣言は、ロシア、イランなどが反対し、反対意見も明記された。
さらに、国連人口開発委員会でも、14年にバチカンなどが反対し、翌年にもアフリカグループが国内の文化・宗教を踏まえた性教育を行うべきだと反対し、歴史的な決議文書非採択の引き金となった。
わが国で「包括的性教育」を推進している中心人物は、筆者が拙著『間違いだらけの急進的性教育』(黎明書房)で批判した山本直英氏の後継者(“人間と性”教育研究協議会代表幹事)の浅井春夫氏で、昨年10月に大月書店から『包括的性教育:人権、性の多様性、ジェンダー平等を柱に』を出版している。
かつて自民党の安倍晋三座長の下で実施された「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクト」で問題視された「過激な性教育」推進団体が国連などを利用して新たな装いで全国展開を画策している「性教育」は真に「包括的」なものではない。
教育混乱の張本人招く
「子ども基本法」制定を目指す第1回研究会に招かれた荒牧重人氏は、子供の人権を拡大歪曲(わいきょく)解釈した川崎市等の「子どもの権利条例」を全国的に推進し教育現場を混乱(『文藝春秋』平成3年11月号の拙稿および拙著『児童の権利条約』至文堂、参照)させてきた張本人である。また、平野裕二氏は「国連・子ども権利委員会」の傍聴を1992年から続け、同委員会に積極的に働き掛けてきた市民活動家で、こうした人物を最初に招くのは不見識も甚だしい。
「こども庁」や「子ども基本法」が、子供の権利や性教育を歪曲し、教育と法の論理を混同した「誤った子供中心主義」の推進者や、赤石氏ら実子誘拐を推進する人々の影響下に置かれないように厳しくチェックし、バランスの取れた審議を尽くすよう強く求めたい。
(たかはし・しろう)