日米首脳会談の成果と担うべき課題
拓殖大学名誉教授 茅原 郁生
「防衛力強化」の推進必須
求められる同盟国の共同責務
去る4月16日には、世界に先駆けて菅総理が米国に招かれ、バイデン大統領との対面での初首脳会談がワシントンで開催され、両首脳の信頼関係深化という成果を挙げた。先立つ3月18日には米国務長官と国防長官が揃(そろ)って初来日し、わが外務・防衛両相と会談(日米2プラス2)が開催されていた。
台湾海峡の安定を重視
両会談での要点は、中国が軍事力を背景に挑戦を続ける威圧への対応、特に台湾海峡の平和と安定を重視し、日米同盟の強化を図る方針の確認が中核であった。さらに中国の挑発的な海洋進出は、わが尖閣海域への強圧となっているが、日米安保条約5条適用の「揺るぎない米国の決意」が表明された。心強い米側の同盟上のコミットの成果を得たが、そこにはバイデン大統領が警戒する台湾危機には、日本も同盟国としての共同責務を果たすことが期待されることになる。
菅総理は「防衛力強化」の決意で応えたが、それは防衛予算増額レベルを超えた防衛の自立性強化に向けた課題を背負うことになったのではないか。さらに将来的には中距離核戦力(INF)全廃条約無き後の核ミサイル軍拡競争に絡む同盟国としての貢献も求められようが、いずれも同盟パートナーの共同責務を果たすためには、わが国の防衛方針をも変える覚悟で、国益を踏まえた「防衛力強化」の推進が迫られてくる。
日米首脳会談後の共同声明に台湾問題が取り上げられたのは、1969年以来半世紀ぶり。その台湾海峡では近年、米中両国軍が威嚇の反復で緊張を高めており、現にインド太平洋軍司令官は米上院で「6年以内に中国の台湾侵攻の危険性」を証言し、バイデン大統領の決意も揺るがないとされている。万一、台湾有事が生起の際にわが国に何が求められ、何ができるのか、台湾有事を想定したわが国の対応の在り方の検討が迫られ、難しい国益上の危機に繋(つな)がる。
しかし逆にグローバルパートナーとしてわが国に期待されるのは、米中両大国だけでなく台湾を含めて外交実績のあるわが外交にとって「両岸問題の平和的解決」を外交テーマ(活路)にする対応もあるのではないか。その観点で菅総理の台湾有事の発生防止、抑止への外交努力として、早い段階の訪中と日中首脳会談が重要になってこよう。しかし「力の信奉者」的な中国を動かすにはパワーが必要となり、先の同盟強化の他に日本の「防衛力強化」の在り方も重要要因になってくる。
これまでわが国は核の傘に限らず、「盾と矛」に例えて米軍事力との役割分担に依存し、べったりともたれ掛かってきたが、その姿勢は中国の「日本は属国」の批判に繋がっている。日本防衛については、敵ミサイル発進基地への攻撃なども自衛行動の一環にするなど、自立性を高める「防衛力強化」として進めるべきではないか。
さらにトランプ時代に破棄されてINF条約無き時代となり、米露間の中距離弾道ミサイル(MRBM)の軍拡競争の激化が始まっているが、これにMRBMを最大数保有する中国をどう巻き込むかは長期的な大課題となろう。その核ミサイル軍拡競争への対策の一環として米国がMRBM基地の前方展開を図る事態も考えられ、第1列島線上の緊要地勢にあるわが国土への配備要求が浮上しよう。その際、同盟国として「非核3原則」の制約をどうするのか、これも広義には「防衛力強化」の一環として法制を含めて検討に着手する必要が生じよう。
米中協力の仲介役に
日本の立ち位置は、米中両大国の狭間(はざま)にあって、安全保障は米国との半世紀を超える堅実な同盟に依存し、経済は最大交易国である中国と相互依存関係にある。
今次の日米首脳会談の成果は、人権・民主・民族問題など政治体制の違いを際立たせて日米対中国の対立構造が強調されがちであるが、今日世界を覆うコロナ禍や地球温暖化の脅威も無視できず協力が求められる。日米首脳会談の共同声明にも技術革新への投資と、気候変動問題への取り組みへの協力も謳(うた)われているが、この分野では中国も含めて共有できる問題であり、協力努力として現にケリー氏訪中など進められている。
米中の狭間にあってわが外交は双方にパイプを保って、地政学的優位を生かした仲介努力が求められており、日米首脳会談の成果を突破口として、さらに防衛力強化の成果を得てダイナミックに展開していきたいものである。
(かやはら・いくお)