参院選「一票の格差」合憲の意味
平成国際大学教授 浅野 和生
47都道府県体制の再編を
菅内閣は明日の国家像を示せ
11月18日、2019年参議院通常選挙の「一票の格差」について、最高裁大法廷は合憲の判断を下した。マスメディアは、裁判の趣旨に沿った法の下の平等の問題として賛否両論、さまざまな論評を掲載したが、解決すべき課題はもっと本質的なものではないか。
合区解消へ見直し必要
かつて「道州制」の議論が高まったことがあった。1989年から92年の臨時行政改革審議会は、都道府県の広域連合とあわせて道州制の検討を答申した。2004年には、地方自治法が改正されて、申請によって都道府県の合併が可能となった。さらに、第28次地方制度調査会が06年に、「道州制のあり方に関する答申」を提出した。
しかし、今のところ道州制導入の気配はなく、47都道府県の体制が継続している。振り返ってみれば、今日の都道府県制度は、明治維新による廃藩置県から始まり、明治23(1890)年以後、実質的に1都1道2府43県となって、今年で130年が経過している。
今回の最高裁判決は、合区の解消を強く望む声があったにもかかわらず合区を維持し、2016年選挙の一票の最大格差3・08が3・00倍へと0・08倍改善されたことを評価した。また、前回選挙後の判決が求めた「抜本的見直し」はなかったが、国会が是正を目指してきたというその姿勢をもって肯定した。
しかし、衆参両院で、各都道府県が代表を送り出すことが原則なのだとすれば、合区は解消されなければならない。ところで今回の判決は参議院に最高3倍の格差を容認したが、衆議院では2倍までが合憲の基準となっている。この差については合理的根拠に乏しい。
仮に参議院も一票の格差を2倍以内に収めるとすれば、参議院では各都道府県定数の最低が2だから、鳥取県を2人として、一票の最大格差が2倍以内になるよう、人口の多い都道府県の議員定数を増加させる必要がある。現在の有権者人口を基準に試算すると、東京都は現行の12人を21人に、神奈川県は8人を14人にしなければならない。日本全体では約85人増となる。
いずれにせよ、複数県にまたがる合区を解消しながら、今後も参議院通常選挙が合憲と判定されるためには、130年間続いた47都道府県を見直すしかないのではないか。ところで、選挙区の合区ではなく、都道府県境の引き直しとなれば、従来の県境に固執する必然性はないので、地理や歴史、文化を理由に四国地方を適宜三つに分け、中国地方を五つか六つに分けてもよい。
ちなみに、四国は、明治以後に4県が置かれたから「四国」なのではなく、讃岐、阿波、伊予、土佐の4国があったことから「四国」と呼ばれている。だから、3県しかなくなっても「四国」でかまわない。そもそも、九州には7県しかないではないか。
東京一極集中と地方の過疎化、産業構造の変化のなかで、地方が活力を失うことなく、日本が全体として、国土の均衡ある発展を目指すには、もはや賞味期限切れの47都道府県体制は見直すべきではないか。その際、一部地域対象の立法では住民投票が必要だが、これだと「大阪都構想」と同様に否決される可能性が高い。この際、制度的変更の立法で、四国、中国地方の県境引き直しと合わせて全国を見直せばよい。その議論の中から、道州制の方がもっとよい、となればそれもよい。
現行の都道府県割りは、必ずしも歴史に根差したものでもなく、住民の意思を問うこともなく決められたが、今日ではその都道府県に住民はアイデンティティーを抱いている。130年慣れ親しんだ効果である。だから今日、新しく作り直しても、30年もすれば慣れるから心配はない。10年でもだいたい慣れることは、平成の市町村大合併で経験済みである。大切なことは、市民生活に不便がないようにし、地方間の格差が極端にならないようにすることである。
憲法改正の必要はなし
ちなみに、これには憲法改正は不要である。菅内閣は、省庁間の縦割り是正だけではなく、100年先を見据えた地方自治の在り方を考案して、実行に移すべきである。大きな構想を抱いて、これを実行するという、実力と責任感ある政治に期待したい。
(あさの・かずお)






