那覇軍港の浦添ふ頭への移設で沖縄県が迷走


 沖縄県の那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添ふ頭への移設で、松本哲治浦添市長が今年8月、政府が日米合意の計画「北側案」を容認したことで、県と、那覇、浦添両市の3者間の認識は一致したはずだった。ところが、その後、玉城デニー知事は、「民港の方向性を打ち出すことが優先」と言い出すなど、軍港移設について煮え切らない態度を取っている。こうした中、那覇港管理組合が、両市に知らせずウェブサイト上で民港についての県民意識調査を行ったことで、両市が反発。移設計画の停滞を招いている。(沖縄支局・豊田 剛)


政府が那覇軍港「北側案」を容認、玉城知事は一転「民港優先」に

 那覇港管理組合の管理者は沖縄県の玉城デニー知事。知事が3者合意に基づいて移設協議会を開催すれば、那覇軍港移設問題は大きく前進する。翁長雄志前知事の後継者、玉城知事もこれまで、浦添ふ頭北側への移設は「基地の整理縮小や跡地利用による県経済の発展に寄与する」と、容認する意向を明確にしてきた。

 ところが、玉城県政を支える県議会の最大基盤である社民と共産は浦添移設に反対。社民と共産以外の与党会派では賛否が割れている。

 玉城知事の姿勢が曖昧になったことで、那覇港管理組合議会(県、那覇市、浦添市で構成)での協議は難航し、那覇軍港の位置や国を含めた移設協議会の開催時期はまだ決まっていない。

 自民会派からは、「北側案が容認される以前には、玉城知事は『民港優先』に言及したことはなく、那覇港管理組合議会においても民港優先との答弁や決定がなされてはいない」という指摘が出た。

那覇港管理組合のウェブサイト上で民港に関する意識調査を“強行”

那覇軍港の浦添ふ頭への移設で沖縄県が迷走

県民意識調査で示された浦添ふ頭地区計画の2案(那覇港湾管理組合ホームページから)

 玉城県政への不信を招いたのは、那覇港管理組合が今年9月、突然、ウェブサイト上で民港に関する意識調査を実施したことだ。調査では現行計画と違い、軍港を含めた物流ゾーンを縮小させ、大型商業施設の目の前の交流拠点ゾーンを切り離した「見直し案」のイメージ図が示されていた。

 那覇、浦添両市は、調査内容を事前に知らされていないとして、組合に抗議文を提出した。抗議文は9月28日、いずれも市長名で出された。①事前の説明がなく調査を始めた②事前に議論がなかった図案が見直し案として調査で示された――点を問題視している。

 那覇港管理組合は意識調査の期間は9月26日から2週間を予定していた。ところが、9月29日の議会で野党議員から批判を浴びると、その翌日、知事は意識調査の停止を指示した。

玉城知事らの関係2市無視が明らかに、百条委員会を設置して追及

 知事ほか三役が那覇と浦添の両市の合意を得ないまま意識調査の実施を指示したことが明らかになったことを受け、那覇港管理組合議会内に特別調査委員会(百条委員会)が設けられた。

那覇軍港の浦添ふ頭への移設で沖縄県が迷走

那覇港管理組合議会の百条委員会=11月25日、沖縄県那覇市の那覇港管理組合(豊田剛撮影)

 11月25日、那覇港管理組合議会の百条委員会(又吉謙一委員長)は最初の証人喚問を実施。意識調査の起案に関わった組合計画建設課の比嘉博也計画班長を尋問した。県政野党からは組合管理者である知事からの指示はあったか厳しい追及があった。両市への報告なしで調査を始めたことについては、比嘉氏は「厳密な指示はなかった」と答えた。約2時間の尋問の中で、革新系の委員は誰一人として質問しなかった。

 次回の尋問は12月以降で、比嘉氏の上司の担当課長や参事監、調査の決裁者である常勤副管理者を予定。委員会は管理者の玉城デニー知事への尋問も求めている。

県議会でも論点に、玉城知事は浦添市長選を睨み共産・社民に配慮か

 開会中の県議会11月議会でも軍港移設に関する質問が相次いでいる。島尻忠明県議(自民)は7日の一般質問で、意識調査で混乱した原因について尋ねると、県側は「当然ながら構成団体の理解を得た上で実施すべきこと」と述べ、県の落ち度を暗に認めた。玉城知事は肺炎のため代表・一般質問を欠席している。

 2日の代表質問で仲里全孝県議(自民)は、「浦添市は早期の移設協議会の開催を求めている。知事が応じない理由は2月の(浦添)市長選挙で反対する共産党候補が出馬するからではないか」と問い詰めた。これに対し県当局者は、「西海岸道路が完成し、大型商業施設ができたことで県民の関心が高まったことから、県民の意向を確認することが大切ということになった」と答弁した。

 11月定例会に先立つ11月25日、県議会米軍基地関係特別委員会の照屋守之委員長ら同委員会所属の県議6人は県庁に玉城知事を訪ね、軍港移設と浦添西海岸開発の早期実現を求める意見書を手渡した。玉城知事は「重く受け止めている」と答える一方で、移設の是非については明言しなかった。

 玉城知事は10月、那覇軍港は「遊休化している」とし、官房長官と防衛省に那覇軍港の先行返還を求めている。これについても、那覇と浦添の両市、地主会には事前に「説明しなかった」ことを、謝花喜一郎副知事は7日、県議会で認めた。普天間飛行場と同様、代替施設が完成した上で返還されるという日米合意を無視した頭越しの発言だ。

 自民党沖縄県連幹部は、「知事は、自らの支持基盤を維持するためには、那覇軍港移設の議論を進めず、塩漬け状態のまま推移した方がよいと思っているのではないか」と指摘する。