難問山積の対北朝鮮外交
元日朝国交正常化交渉日本政府代表 遠藤 哲也
非核化交渉、米国支援を
拉致解決には首脳会談不可避
日本の対北朝鮮外交の中長期目標は国交正常化である。その大筋は2002年9月の小泉純一郎総理(当時)の訪朝の際の日朝平壌宣言に記されている。正常化交渉で取り上げる問題は経済協力にしろ、請求権問題にせよ、難問ばかりだが、そのうちで最大のハードルは核・ミサイルと拉致問題であり、この二つの解決は正常化実現の前提と言ってもよい。本稿では、筆者が直接に関与した、しかし残念ながら、当初の目的を果たすことができなかった北朝鮮外交の問題について考えてみたい。
ミサイル防衛の強化を
北朝鮮の核・ミサイル技術は長足の進歩を遂げている。核弾頭については、6回の実験を通じ、威力の強大化、小型化にも成功したとみられ、水爆実験も行ったと言われている。核弾頭の素材である高濃縮ウラン、プルトニウムについても、すでに数十発分の在庫を持っていると推察されており、大量の化学兵器も保有しているもようである。運搬手段である弾道ミサイルは、かねて開発に取り組んでおり、中東地域等へ輸出している。日本全域を射程に入れる準中距離弾道ミサイル(MRBM)ノドンは、すでに実戦配備されているとみられ、米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験にも成功しており、実戦配備も時間の問題であろう。繰り返しの実験によって、性能も向上し、長距離射程化、移動発射化、固体燃料化の技術も発達し、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の現状はともかく、遠からず実戦化されるであろう。
北朝鮮が増強する核・ミサイルの脅威に、日本として、いかに対応すべきか。以下にいくつかの現実的な対応策を順不同であるが、問題点を考えてみたい。
①日米韓の協力。強固な協力を構築することだが、現在の日韓関係はとりあえず解決しているとはいえ、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の例にみられるように、随分問題がある。
②ミサイル防衛の強化。すでに配備されている陸上配備型PAC3やイージス艦搭載の海上配備型SM3に加えて、対象範囲のより広い陸上配備型の「イージス・アショア」を早急に配備する。
③北朝鮮に対する国連安保理や日本独自の経済制裁を遵守(じゅんしゅ)し、必要な場合にはさらに強化するとともに、国際社会も忠実に制裁を守っていくよう働き掛ける。
④日米同盟の下で「核の傘」に依存していく。独自の核武装論も理論的にはあり得ようが、現実的には技術的には可能としても、国内、国際政治上、経済上も極めて危険な選択肢である。「核の傘」の信頼性の向上に努めるべきである。
⑤北朝鮮の非核化。一挙に完全なものでなくても、段階的に核・ミサイル能力を完全な検証の下に、不可逆的に削減していく。しかしこの方法は、米朝交渉に頼らざるを得ないので、日本としては米朝交渉を支援していくとともに、日本の立場をしっかりと米国に伝えていかなければならない。北朝鮮は核・ミサイルの交渉相手は米国のみであるとしている。トランプ政権は大統領選挙を控えた国内政治的配慮からか、核実験中止とICBM断念さえ確保できれば、との態度もうかがわれるので、日本としては短・中・長距離のすべてのミサイルを含む非核化交渉を米側に働き掛けていく必要がある。
拉致問題について近年、米国をはじめとする国際社会の関心と支援が増えてきているのは喜ばしいことだが、第一義的には日本の問題である。この問題の解決は北朝鮮の最高首脳である金正恩委員長の胸一つに懸かっており、そのためには日朝首脳の直接の話し合いが必要である。その観点から、安倍晋三総理の会談の呼び掛けは、的を射ていると思う。特に被害者および、その家族の高齢化を考えれば、時間の余裕はない。しかし他方、首脳会談には大変なリスクを伴うことを銘記する必要がある。
両首脳と意を通じる関係者が水面下での極秘の接触を重ね、周到な準備が必要である。かつての小泉訪朝に先立つ、田中均氏とXとの接触は参考になろう。安倍総理がこの方法を探ることを強く提案したい。
両国間の対話再開期待
本稿では核・ミサイルと拉致の二つの問題を取り上げたが、日朝間にはその他にも、いくつもの難しい問題が横たわっている。経済協力、請求権、人道問題、歴史認識等々である。隣国同士でありながら、かくも長い間、正常な状態でなく、速やかに両国間の話し合いが再開されることを望む次第である。
(えんどう・てつや)