地域づくりの核、民俗伝統芸能の振興・継承を
実演と継承の意義について、道教委が小樽市でシンポジウム
本州の他府県に比べると歴史の浅い北海道であっても地域の中に伝統芸能はしっかりと息づいている。人口減少や少子高齢化が進む地方にあって伝統芸能は地域づくりの核になると北海道教育委員会はこのほど、「ほっかいどう民俗芸能伝承フォーラム」を開催し、地域に根付く伝統芸能の実演と継承の意義などについて話し合うシンポジウムを行った。(札幌支局・湯朝 肇)
東日本大震災復興の力に、小学校が取り組み広がり見せる
「地域に長く根差す伝統芸能は、災害などさまざまな困難にあっても地域を盛り返させる力を有しています」――こう語るのは、NPO法人民俗芸能を継承するふくしまの会理事長の懸田弘訓(ひろのり)氏。12月1日、小樽市公会堂で開かれた「ほっかいどう民俗芸能伝承フォーラム」の講師として招かれた懸田理事長は、2011年3月11日に発生した東日本大震災による津波や福島第1原発事故で壊滅的な被害を受けた相馬市や南相馬市、浪江町などの同県沿岸部の町々の様子に加えて、復興に向けて地域の伝統芸能が大きな力になっている点を紹介した。
「東日本大震災で被害に遭った原釜、新田、磯部などの地区は全戸が流出し、多くの方が犠牲になった。神楽で使う獅子頭などの道具が流されるなど大きな被害があったが、それでも各地区では、その翌年には神楽や田植え踊りなど伝統芸能が復活し、今なお継承されている。それだけ伝統芸能と地域のつながりが深いことを示している」(懸田理事長)と説明する。
この日のフォーラムでは、相馬市原釜地区に伝わる原釜神楽と北海道南地区に広がる松前神楽の実演、また伝統芸能の継承などをテーマとしたパネルディスカッションが行われた。ディスカッションには懸田理事長の他に原釜神楽保存会の伊東正芳会長や松前神楽小樽ブロック保存会の本間清治会長らがパネリストとして参加。
この中で、伝統芸能の継承について本間会長は、「松前神楽は古くは江戸時代松前藩にさかのぼります。直面(ひためん)の採物舞や巫女(みこ)舞、獅子舞など多彩な演目があり、現在では渡島管内から道央の留萌管内小平町でも伝承されています。近年、小樽では近隣の小学校での取り組みもあり広がりを見せています」と語る。
一方、原釜神楽保存会の伊東会長は、「震災で家や財産を失った上に、祭りや芸能まで失ったら避難した人は、本当に“ふるさと”を失うことになる。それはある意味で“生きる場所”を失うことでもあり、ふるさとをなくしてはいけないという思いで継承している」と継承の意義を訴える。
ディスカッションの後に実演された原釜神楽では獅子神楽、剣の舞、爺婆(観音畑)の舞が披露され、松前神楽からは神遊舞、獅子五方舞、面足獅子が演じられた。どちらの演目も五穀豊穣や船の安全・豊漁などを神に祈願するもの。中でも松前神楽の神遊舞では地元小樽・潮見台小学校5年生の広瀬健也君と菊野廉斗君が実演。弓矢と玉鈴を持ちながら太鼓や竜笛、手平鉦(てひらがね)の音色に合わせて舞を踊った。実演後、広瀬君は「小学校2年生から始めています。地元にある伝統芸能なので、しっかり守っていきたい」と元気な声で今の思いを語った。
北海道教育委員会は、道内の民俗伝統芸能の継承について平成27年から「ほっかいどう子ども民俗芸能振興事業」をして毎年プロジェクトを組みながら進めている。ちなみに、昨年は「ほっかいどう子ども民俗芸能全道大会」を開催している。
今後の展開について北海道教育庁生涯学習推進局文化財・博物館課文化財保護グループ主幹の横田紀子氏は、「人口減少と少子高齢化が進む地方を活性化させるためにも地域に根付いている祭りや伝統芸能に着目し、継続的な振興・継承が図れるように支援していきたい」と話す。北海道には国指定の重要無形民俗文化財が二つ、道指定では七つある。その他に200余りの伝統芸能が登録されている。地域住民の郷土愛を育む上でも伝統芸能の復興は不可欠の要素であることは論を俟(ま)たない。