韓国・文政権 中国の反米同調圧力に動揺
中国が韓国に対し安全保障上の反米路線に同調するようあからさまに圧力をかけている。韓国に配備した迎撃ミサイルの撤去や新たな中距離ミサイル配備の見送りを求め、北東アジアにおける日米韓3カ国の連携を崩そうとしている。韓国・文在寅政権は経済依存度が高い中国の意向を無視できず、相変わらず右往左往している。
(ソウル・上田勇実)
ミサイル配備に曖昧姿勢
「中国の核の傘」提案する補佐官も
先週、5年ぶりに訪韓した中国の王毅外相は文大統領との会談で、南部の星州(慶尚北道)に配備された在韓米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)に言及し、「サードなど中韓関係の健全な発展に影響を及ぼす問題を今後とも適切に処理することにした」(華春瑩・外交部報道官)という。
韓国の青瓦台(大統領府)は当初、会談でサードが議題に上がったことには一切言及せず、中国側の発表で明らかになったことを受け、しぶしぶやりとりがあったことを追認した。いかに文政権がこの問題で中国から圧力をかけられている事実を表沙汰にしたくないかを物語っていると言えよう。
サードを「適切に処理する」としたのは、事実上の完全撤去を促されたも同然だとする見方が出ており、こうした中国の高圧的態度は結局、この問題で低姿勢だった文政権の自業自得だとする批判が上がっている。
これまで中国は、サードが北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃するのが目的であることを知りながら、中国本土を広範囲に監視できるレーダーの付設を口実に配備に反発してきた。米国が韓国にサードを配備する裏目的には中国の軍事施設監視があり、容認できないとする反米路線だ。
韓国は中国から「限韓令」(韓国製品の輸入禁止など)と呼ばれる報復措置を取られた上、「三不」(サードを追加配備しない、日米韓を軍事同盟化させない、米国のミサイル防衛体系に加わらない)を合意させられるなど「安保主権を放棄したかのような屈辱的な低姿勢」(元韓国政府高官)を強いられてきた。
また韓国が日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の更新をめぐり一時、破棄すると発表して日米の反発を買うなど日米韓連携が揺らぎかねない事態になった間隙(かんげき)を縫うようにして再度圧力をかけてきた側面もありそうだ。
サードと並び中国が韓国に圧力をかけているのが中距離ミサイル配備問題と言われる。
8月、北京で開かれた中韓外相会談で王毅外相は、米国による東アジア中距離ミサイル配備に反対の立場を表明したといわれ、他の中国外交部幹部も「隣国が米国の中距離ミサイルを配備した場合、座視しない」と述べた。
中国が米国の中距離ミサイル韓国配備を警戒しているのは、米国がこれを対中抑止力と位置付けているためだ。米国は2月、ロシアとの間で締結していた中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱をロシア側に通告した。
これは表向きにはロシアのクルーズミサイルへの対抗措置とされるが、実際には現時点で米国の脅威となっている中国の中距離弾道ミサイル開発に対抗しなければならないためだ。
中国側は最近この問題で「米国が韓国に中国を狙った戦略的武器を配備した場合、いかなる結果がもたらされるか想像できるだろう」(邱國洪・駐韓中国大使)、「韓国が米国の中距離ミサイルを配備すれば中韓関係を完全にぶち壊し、韓国にとって耐えがたい結果を生む」(中国・環球時報)と韓国を露骨に脅している。
こうした圧力にも文政権が反論した形跡はなく、曖昧姿勢を貫いている可能性が高い。
中国の韓国に対する反米同調圧力が目立ち始める中、文政権のブレーンである文正仁・大統領統一外交安保特別補佐官が驚くべき発言をし、物議を醸している。
文補佐官はこのほど政府系シンクタンク主催の会議で「仮に北朝鮮非核化が実現しない段階で在韓米軍が撤収したら中国が韓国に核の傘を提供し、その状態で北朝鮮と交渉してはどうか」と提案した。安全保障の枠組みを日米韓から中韓に鞍替えできるという発想に文政権の危うさが如実に表れている。