ヒアリ、「早期発見と早期根絶」が重要

外来アリ対策で琉球大・京大など4研究機関がタッグ

 一昨年、国内でヒアリが確認され、日本全体を震撼(しんかん)させた。ヒアリ対策を研究する専門家による会議が15日、沖縄科学技術大学院大学(OIST)で開かれ、研究者らが意見交換した。外来生物は、「早期発見と早期根絶」が重要だと訴えた。(沖縄支局・豊田 剛)

沖縄の取り組みが成功モデルに、確立した技術を全国展開

 2017年夏、日本国内でヒアリの上陸が初めて確認されて以来、約2年が経過した。国内ではヒアリの野生巣の発見はまだないものの、ヒアリの発見事例数、個体数ともに増加を続け、その範囲は全国各地に及んでいる。沖縄ではまだ発見されていないが、ヒアリ侵入は時間の問題という厳しい見方も出ている。

ヒアリ、「早期発見と早期根絶」が重要

ミーティングでヒアリ対策について討論した研究者ら=15日、沖縄県恩納村のOIST

 こうした中、琉球大学、京都大学、OIST、国立環境研究所の4研究機関は、ヒアリの防除・根絶・侵入への対策に向け、共同研究プロジェクトを立ち上げた。研究プロジェクト名は「外来アリ類をモデルとした侵略的外来生物管理体系の構築」で、環境省のヒアリ対策の一環。15日には、その4機関の研究者らがOISTに集まり、キックオフミーティングを開催した。

 琉球大学は、外来アリを効果的におびき寄せる新たなベイト(誘引餌)技術の開発を担当。京都大学は、ウイルス感染によるベイト効果に対する影響を研究している。国立環境研究所は、簡易かつ効果的に外来アリを同定(分類)し、駆除する技術を開発している。

 OISTはこれらの技術を用いた防除システムを社会実装し、外来アリモニタリング技術を沖縄で試行。確立した技術を今後3年をめどに全国に展開することで、ヒアリ監視ネットワークを国内に張り巡らせることを目指す。

ヒアリ、「早期発見と早期根絶」が重要

ヒアリ対策のトラップを確認するOISTの吉村正志博士=14日、OIST内

 アリ研究者で琉球大学農学部の辻和希教授は、「ヒアリ問題は終わっていない。ヒアリは侵入し続けている」と注意喚起した。「今までは水際対策が行われていたが、限界がある」と指摘。港湾に入った荷物は速やかに荷主に届けなければならず、検疫突破が容易に起こるという。「さまざまな場所に運ばれるコンテナの隅にすみ着いているため、全国どこに持ち込まれ、野生定着してもおかしくない状況にある」と説明した。

 ヒアリなど外来生物が世界で増え続けている原因はグローバリズムだと指摘する。貿易が増え、物流が国の間で頻繁になることで、外来アリが増えたという。また、ヒアリ被害を受けている米国では年間5千億~6千億円の被害額が報告されているという。定着させる前の「早期発見、早期根絶のシステムを構築したい」と話した。

 また、2000年代前半には台湾でヒアリ被害が拡大し、地域全体がパニックになり、風評被害などで経済的大打撃を受けたと報告されている。

 「ヒアリには従来のアリを駆逐するほどの力がある」と話すのはOISTの吉村正志博士。「アリのバランスが崩れれば生態系全体が崩れる」と警鐘を鳴らす。沖縄はヒアリを含めた外来アリの対策が全国で最も進んでいる地域だ。水際対策を徹底しており、ヒアリはまだ1匹も見つかっていない。

 県内では74のトラップ(罠〈わな〉)を設置し、常に監視の目を光らせている。トラップは、広域かつ網羅的にヒアリを採集し、ヒアリなどの侵入を確認する仕掛けだ。2週間に1度、採集するが、多い時には1万匹を超える生物が捕獲されるという。また、県内の港湾や高校などでも定期的にアリの分布を調査している。

 吉村氏は、「沖縄県は県、市町村、環境省、民間事業者、研究機関、港湾・空港が連携している成功モデル」と評価。ただ、離島の対策はこれからで、これから全国でも適用できるようマニュアル化すると説明した。

 その上で吉村氏は、「人やモノの国際移動がこれだけ発達した状況で、ヒアリの侵入を食い止めることは困難。社会全体で取り組まねばならない」と強調し、マスコミ報道などを通じて国民に注意を喚起することの重要性を訴えた。

 参加者からは「沖縄にはOISTがあるからヒアリ対策の環境が整っているが、他府県では同じようにはいかない」と厳しい意見も出た。