玉城新沖縄県知事への不安
政策未熟で具体性なし
「弔い合戦」と好景気で当選
ご存じの通り、9月30日に投開票された沖縄県知事選では、前自由党衆院議員の玉城デニー氏が、自公が全面支援した前宜野湾市長の佐喜真淳氏らを破って初当選を果たした。玉城氏の39万6632票に対し、佐喜真氏は31万6458票という大差であった。
選挙結果の分析はさまざまなところで行われているが、その最大の要因はやはり「弔い合戦」になったことであろう。選挙戦の後半は、玉城氏が翁長氏の後継者であることを強調する場面が目立った。
平成10年の県知事選において、大田昌秀氏を破って当選した稲嶺恵一氏が掲げたキャッチフレーズは「県政不況」である。政府に反対ばかりの大田県政が不況を招き、失業率も高いままだという主張だが、それは当時の多くの県民が感じていたことであった。
仲井眞弘多氏が3選を目指した平成26年の県知事選では、その直前に仲井眞知事が振興予算の拡充や日米地位協定の改定、オスプレイの県外配備、普天間基地の5年以内の運用停止などを条件に辺野古埋め立てを承認した。
それに対して政府が振興予算として毎年3000億円台を確保することや、日米地位協定を補足する新協定のために米国と協議すること等を表明。さらに、それを受けた仲井眞知事が総理官邸での会談後に「これは良い正月になるなぁというのが私の実感です」と発言した映像が流れた。
沖縄の新聞はその言葉を大きく報じ、沖縄をお金で売った知事というレッテルが貼られた仲井眞氏は、「辺野古新基地は絶対に造らせない」との立場を訴えた翁長氏に9万9744票差で敗れた。
沖縄の知事選挙は、政府に反対ばかりの「革新」知事が続くと「保守」を選び、政府にべったりの「保守」が続くと「革新」知事が選ばれると言われるが、今回も半年前までは今回の選挙も「反対ばかりの知事では」というムードが漂いかけていた。その中で翁長氏の死去である。
さらに、ここ数年の沖縄県は人口も増加し、バブルともいわれるほどの好景気である。完全失業率もかなり低くなり、新卒の学生たちは「売り手市場」。「県政不況」というかつてのキャッチフレーズは使うことができなかった。
以上の2点が、佐喜真氏が勝てなかった大きな要因である。
選挙前に放送されたNHKの番組に「沖縄県の課題に対する考えを4人の候補者にインタビュー」するというものがあった。
その番組を見ていた私の友人数名は「玉城さんが知事になって大丈夫だろうか」と話していた。興味深いことに、その数名は玉城候補に投票すると明言していた友人たちである。
基地問題に対する玉城氏と佐喜真氏の考え方の相違点は予想通りであり、多くの視聴者も違和感はなかっただろう。しかし、驚いたのは、子供の貧困対策と経済・暮らしについての政策に何の具体性もなかったことである。
子供の貧困対策について玉城氏は、妊娠してから就学までの切れ目のない支援を全市町村に包括センターをつくり、女性の皆さんの声に耳を傾け、子供、女性、若い人たちがひとりも取り残されない社会をつくるとしか言わず、そこに何らかの具体的な政策を聞くことはできなかった。
最も驚いたのは、経済の活性化についてである。
玉城氏は、産学官でつくる万国津梁事業を民間のNGOやNPOと一緒にやっていくといい、アジアのダイナミズムを呼び込んで日本経済の牽引(けんいん)役になりたい、アジアのハブ&スポークのコアとしてフロントランナーになると話す。
私が思い出したのは、かつての大田県政の時の「国際化」「アジアのハブ」という政策のことである。当時の日本とアジアの経済格差を考えれば、その発想そのものは悪くはなかったが、残念なことに打ち上げ花火だけのものであった。
あれから四半世紀が過ぎ、アジア諸国の経済力に関するわずかな知識があれば、かつてのように安易に「アジアのダイナミズムを呼び込」むとは言えないはずである。呼び込むどころか沖縄が飲み込まれてしまう可能性の方が高い。
しかし、佐喜真氏の方に玉城氏を圧倒的に凌(しの)ぐほどの経済政策や子供の貧困対策があったかといえば、そうではなかった。
佐喜真氏は子供の貧困対策として、保育料、給食費、医療費の無償化を訴えたが、県民の多くはそれが実現可能だとは思えなかっただろう。経済政策も、具体的には空港周辺整備としか言えなかった。
もし、現在の沖縄が不景気で失業率も高かったのなら、佐喜真氏の当選もあり得たと思う。しかし、今の沖縄は好景気なのである。そんな中での「弔い合戦」であった。
私が心配なのは、私の周りの玉城新知事を支持する多くの人たちが、玉城新知事の政策の未熟さや具体性のなさを感じながらも「それでもやはり玉城」と言っていることである。これから迎えるであろう苦しい状況を「お互いに知恵を出し合って乗り越えていきたい」と話す。
本当にそれだけの気概を持って沖縄県民は玉城氏を知事に選んだのだろうか。今後はそのことが問われるだろう。
(みやぎ・よしひこ)






