沖縄の「子どもの貧困」対策

宮城 能彦沖縄大学教授 宮城 能彦

「自立」助ける支援を

良い結果を生まぬ不労所得

 先日、木材関係会社の新年会で講演をさせていただいた後の懇談会で、日本の林業の現状について話題になった。日本の林業が振るわなくなって久しく、見通しも決して明るくはない。しかし、それ以上に問題なのは生産森林組合が補助金をもらうための団体と化していることではないか、という指摘がとても印象的であった。

 離島で時々聞くことは、漁に出るよりも魚を取らずに漁業補償を受けた方が収入は大きいという話である。農業でも、例えば減反政策は「米を作らない」方が儲かるシステムだとも言える。サラリーマン家庭でよく話題になるのは配偶者控除。働きすぎると控除が受けられずむしろ損をしてしまうという制度は、やはりどこかおかしい。

 本来的なことで努力した人間は報われず、むしろ「何もしない人」の方が得をする。すなわち、日本の様々な制度は、国や地方公共団体からの補助金などに依存する国民を育ててしまっているのではないかと、どうしても考えてしまう。

 しかし、ここで気を付けなければならないのは、安易な生活保護制度批判である。一時期ネットを中心に生活保護受給者に対するバッシングが流行っていたが、その多くは制度に対する誤解に基づくものであった。

 確かに、例えば、いわゆる母子家庭において、母親が一生懸命に働いている家庭よりも、生活保護を受けている家庭の収入の方が多いことがある。しかし、それを理由に生活保護の水準を下げてしまえば、生活保護を基準に算定されている最低賃金が下がり、一生懸命に働いている母親の家庭の収入はより少なくなってしまう。

 問題は、生活保護を受けている世帯の収入が多すぎるといったところにはない。もし、生活保護が勤労意欲を失わせることがあるのなら、そのしくみが問題なのである。生活保護制度は、「健康で文化的な最低限度の生活」を実現すると同時に自立を促す制度でなければならない。

 沖縄の米軍基地問題の本質も、「自立」の阻害にあると私は考えている。

 沖縄における軍用地主数は約2万5000人。借地料は、沖縄が日本に復帰した1972年に138億円であったものが、2010年には791億円にまで膨れ上がった。しかし現在では、軍用地料を受け取っている人全てが沖縄県民ということではなく、4兆円近い県内総生産と比べれば、沖縄経済が基地依存だとは言いにくいだろう。問題は、軍用地料の総額ではなく、2万5000人の人が軍用地料という名の「不労所得」があるということだ。

 不労所得がいい結果を生み出すことは稀である。むしろ、その人の自立を阻害する。子どもの教育にも無関心になりがちである。それこそが沖縄の基地問題の本質だと私は思う。

 その沖縄で、最近特に話題になっていることが、「子どもの貧困」である。

 日本財団の調査によると、2013年10月時点で15歳であった子どもの貧困対策を行わなければ、その子どもの生涯所得が2・9兆円減少、税金や社会保険料等の政府の収入も1・1兆円減るという。県別に見ると、最も損失が大きいのが沖縄である。

 沖縄県は、1人当たり県民所得が最下位、非正規の職員・従業員率、母子世帯出現率、児童扶養手当受給率が全国1位であり、子どもの相対的貧困率が29・9%、県内で暮らす子どもの3人に1人が貧困状態に置かれているという調査も報告されている。その打開策として沖縄県は30億円の基金を用意、那覇市でも内閣府の貧困対策費10億円が計上された。地元新聞各社もその特集を連日1面に持ってくるなどの盛り上がりである。

 しかし、そもそも子どもの「貧困」とは何か? 「貧困」の何が問題なのかという本質的な議論が弱い印象を受ける。

 最近は私も、引きこもりや不登校生徒の自立支援のNPOを運営している友人と議論する機会が増えた。彼の活動も「子どもの貧困」に直結していることが多い。その彼が危惧していることは、まるで流行のように沖縄の「子どもの貧困」がクローズアップされて巨額のお金が動くようになると、むしろこれまで地道に活動してきた人たちよりも、新しく活動を始めた団体の派手なパフォーマンスの方に注目がいってしまうのではないかということである。

 貧困の「負の連鎖」を断ち切るための本質的な「自立」支援ではなく、目の前の「貧しい状況」をとりあえず見えなくする一時的、対症療法的な「支援」ばかりが行われるのではないか。私には彼の心配が決して過度な悲観論には思えない。

 なぜなら、これまでの沖縄振興策には「国からお金がもらえるので、さて何をやろうか」というものが少なくなかったからである。結局、シンクタンクの実績・収入にしかならなかったという話はいくらでも聞くことができる。果たして今回の沖縄の子どもの貧困対策はそのようなパターンに陥る心配はないのだろうか。

 目的は「自立」するための支援である。その目的を忘れないように、私たちは絶えず問い直し続けなければならない。

(みやぎ・よしひこ)