機動隊員「土人」発言報道

《 沖 縄 時 評 》

沖縄2紙にブーメラン/ネットの反撃受け撃沈

 「沖縄紙は沖縄の世論を反映しているにすぎない」

 これは偏向報道を批判された時の沖縄2紙の反論だ。

◆「世論作る」と豪語

機動隊員「土人」発言報道

10月21日付1面で松井一郎大阪府知事を攻撃する沖縄タイムス

 その一方、沖縄2紙は「沖縄の世論は我々が作るから」と嘯(うそぶ)く。「沖縄の真実」を取材する本土ジャーナリストに対して、沖縄2紙の記者が吐いた本音だ。事実、沖縄の主要選挙で争点は沖縄2紙が決めてきた。その結果、沖縄2紙が支援する候補者が勝利してきた。直近の参議院選挙では、選挙直前に起きた「元海兵隊の軍属」による女性遺体遺棄事件が「追い風」となり、現役の島尻安伊子沖縄担当大臣までもが敗北する事態となった。沖縄2紙は参院選の勝利を機に、辺野古違法確認訴訟でも「反基地」の民意を一気に盛り上げていくもくろみだった。だが、法律論で闘う法廷では「民意」は通用しなかった。

 9月16日、福岡高裁那覇支部は違法確認訴訟で県の全面敗訴の判決を下した。県は判決を不服として上告したが、沖縄2紙は判決を「国寄りの不当判決」などと連日批判した。ところが、沖縄タイムス自身、県が逆転勝訴する可能性は極めて低いと察知していた。最高裁では事実認定はせず、高裁判決の法令解釈の誤りや憲法違反を審議するという。10月16日付沖縄タイムスは「憲法違反や解釈の誤りを理由とする上告が認められ、最高裁判決で先の判決が破棄された例は、昨年までの過去5年の行政訴訟では41件。わずか0・84%にとどまっている」との記事を掲載、逆転勝訴の可能性に疑念を呈している。

 翁長雄志沖縄県知事の支援者である沖縄2紙は、工事が一時中止の辺野古から東村へと活動の場を移動し、高江近辺で米軍ヘリパッド工事に抗議している反対派抗議団に一縷(いちる)の望みを懸けた。反対派抗議団による「民意」の形成だ。

 つまり「権力を嵩(かさ)に普通の市民を暴力的に弾圧する機動隊」という構図をつくり上げ、「虐げられた沖縄県民」との民意形成に期待したのだ。ところが、沖縄2紙の報道とは逆に、抗議団の一員の添田充啓容疑者が暴力容疑で逮捕され、抗議団のリーダーである山城博治・平和センター議長が器物損壊の現行犯で逮捕されるなど、想定外の事件が続発した。「市民」とは名ばかりの抗議団は、池田克史県警本部長が指摘する「極左暴力集団」そのものであることが判明した。

 そんな折、四面楚歌(そか)の翁長知事にとって、閉塞(へいそく)感に風穴を開けるような一陣の「神風」が吹いた。

 機動隊員の「土人」発言だ。

 高江近辺で反対派活動家の警備に当たっていた大阪府警の若い機動隊員が、反対派の挑発に乗って「土人」と発言してしまったのだ。沖縄2紙は鬼の首でも取ったように「県民に対する差別」などと批判記事で紙面を飾った。沖縄2紙は「土人」発言を、翁長知事を取り巻く閉塞感を一気に吹き飛ばす千載一遇のチャンスと捉えた。これを契機に「反基地」の大きな世論を形成していけば、仮に最高裁で県側の敗訴が確定しても、翁長知事が主張する「あらゆる手段で辺野古阻止」に整合性を与えることができる。そうなれば法治国家の県知事としては信じがたい言動だが、最高裁判断に対抗して県民投票で「辺野古阻止」の信任を得ることができる。これまでも捏造(ねつぞう)報道で世論をリードしてきた沖縄2紙は、傲慢にも最高裁判断に挑戦する戦略を練った。

 ところが、沖縄2紙には大きな誤算があった。ネットの急速な普及、とりわけ高江現場の一部始終を放映する「動画」の普及である。機動隊「土人」発言でいったん沸き立った「反機動隊」の世論は「ノーカット版動画」の放映で、攻守ところを変えることになる。動画を見た国民はこう考えた。確かに機動隊の暴言は不適切だ。だが、その前後に機動隊員に暴言を浴びせた「市民」と称する反対派活動家は、池田県警本部長が指摘する通り「過激派といわれる極左暴力集団そのもの」ではないか。「挑発に乗った機動隊員も悪いが、彼らに浴びせられた人権無視の罵詈(ばり)雑言を聞けば、反基地活動家の方がより悪質だ」との声が巻き起こった。

◆大阪知事を標的に

 思わぬネット情報の反撃に、沖縄2紙の戦略は徹頭徹尾「高江の真実」を読者から遮断することだったが、勝ちを焦った。

 その一方、沖縄2紙は批判の標的を拡大。より影響力のある松井一郎大阪府知事の言葉尻を捉え攻撃した。松井知事は、「今回の警察官の発言は不適切であり反省すべき」とコメントした上で、大阪府知事としては当然の「出張ご苦労様」とねぎらいの言葉を述べたにすぎない。沖縄に派遣された大阪府警の機動隊が沖縄北部の山中で違法な暴徒の取り締まりを一生懸命務めていることが分かったので、機動隊の上司に当たる松井府知事としては当然のねぎらいの言葉であった。松井府知事の言葉は沖縄派遣の全機動隊員に対して送られたものであり、問題発言の機動隊員個人に送られたのではない。これは小学生でも理解できるはずだ。

 ところが沖縄2紙を筆頭にマスコミ各紙は松井知事の発言を歪曲(わいきょく)し、あたかも松井知事が「土人」発言を擁護しているかのような歪曲報道をした。10月21日付沖縄タイムスは1面トップを「大阪知事機動隊員を擁護」と大見出しで攻撃している。

 そもそも沖縄県の治安維持の最高責任者は翁長県知事であり、県公安委員長の人事権は県知事にある。その公安委員長の要請により沖縄県の警備任務のため派遣された機動隊員に翁長知事が感謝やねぎらいの言葉を伝えた事実を筆者は寡聞にして知らない。ねぎらいどころか翁長知事の口をついて出る言葉は機動隊に対する批判の言葉のみである。本来は翁長知事がねぎらうべきだが、大阪府警の最高責任者の松井府知事が代わりにねぎらったにすぎないのだ。

 メディアの偏向報道に対して、松井府知事はツイッターで次のように反撃している。

松井一郎@gogoichiro 10月21日

MBSのこの編集は酷いな、僕は昨日も今朝も取材の冒頭で、今回の警察官の発言は不適切であり反省すべきと申し上げてから、問題の本質について僕の意見を述べています。しかし、冒頭の不適切反省はカット、とにかく、極悪知事に仕立て上げたいのようですが、全く挫けませんしファイトが湧いてきた。(原文ママ)

◆反対派の暴言公開

 沖縄の政治家は、沖縄2紙の偏向報道に対して真正面から反撃する人はいない。新聞を敵に回したら選挙の際、バッシングの標的にされるのを恐れるからだ。2014年の沖縄知事選の前、仲井眞弘多前知事は「(沖縄2紙は)特定勢力のコマーシャルペーパーだから購読しない」と明らかな新聞批判をしたため「金で沖縄を売った最悪の知事」などとバッシングを受け知事選で敗北した。

 ところが機動隊「土人」発言で世論の流れが変わってきた。ネット情報を追い風に、沖縄2紙に堂々と反撃を加える政治家が登場してきた。

 沖縄2紙はもう一つ読者に隠蔽しておきたいことがあった。28日の沖縄県議会で自民党県議が反対派抗議団による「暴言集」を全て公開すると産経紙が報道したのだ。県議会の質疑は議事録に記録される。沖縄2紙が必死になって隠蔽(いんぺい)する「不都合な高江の真実」が県議会の議事録に記録されては、今後の翁長知事擁護の民意形成に大きな障害となる。ところが、またしても伏兵が現れた。沖縄2紙の隠蔽工作が妨害されたのだ。

 ネットテレビのチャンネル桜「沖縄の声」が、県議会で写真パネルを提示しながら、「暴言集」の全てを公開する自民党県議の説明を暴露した。ネットテレビにより、沖縄2紙の読者に対する隠蔽工作は見事に打ち砕かれた。機動隊「土人」発言は、ある意味、沖縄の世論形成の分水嶺(ぶんすいれい)であった。当初、狂喜した沖縄2紙の記者は「ネット動画」により、天国から地獄へと突き落とされた。もはや、沖縄2紙が報じる「高江の一般市民を弾圧する強権的機動隊」などの捏造報道を信じる者は誰もいない。

 ネットが捏造新聞に勝利した瞬間である。

(コラムニスト・江崎 孝)