「ロシア脅威論は幻想」
プーチン大統領、バルダイ会議で欧米の批判に反論
ロシアのプーチン大統領は10月27日、国際政治専門家らを集め毎年行われているバルダイ会議で演説し、欧米のロシア批判に反論するとともに、世界の平和を脅かしているのはロシアではなく、欧米側であると批判した。一方でプーチン大統領は、リベラル派に属するキリエンコ元首相を大統領府第1副長官に任命しており、欧米との関係改善を図ろうとしている、との見方も出ている。(モスクワ支局)
リベラル派元首相を大統領府第1副長官に
関係改善へのシグナル?
2014年冬季五輪の開催地であるロシア南部の保養地ソチで、10月24日から27日の日程でバルダイ会議が開催された。バルダイ会議は、国内外のロシア研究者、国際政治専門家らを集め毎年開催される会議であり、世界経済フォーラムが毎年1月にスイスで開催するダボス会議のロシア版とも位置付けられている。
プーチン大統領は最終日の27日、同会議で約3時間にわたり演説を行い、その多くの時間を、欧米で高まるロシアやプーチン大統領に対する批判への反論に割いた。ロシアが米大統領の選挙戦に“介入”しているとの批判や、欧米で広がるロシア脅威論についても、「すべて欧米の幻想である」と主張した。
投票日まであと5日となった米大統領選では、共和党のドナルド・トランプ候補はプーチン大統領を褒めたたえる発言を行い、また、トランプ候補は民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン氏が国務長官時代に私用メールサーバーを使用していた疑惑に言及した際に、「ロシアがハッキングすることを望む」と発言し、物議を醸した。
このような中で、ロシアが米大統領選に干渉しているとの批判が出ているが、プーチン大統領はこれを「ヒステリーにすぎない」と切って捨てた。
プーチン大統領は、「米国は巨額な国家債務から警官の横暴まで多くの問題を抱えている」と指摘した上で、「にもかかわらず、米国のエリートたちは何も語ることができず、社会を安心させることができない」「だからハッカーだとかスパイだとか、(大統領選に)干渉しているなどとロシアにレッテルを貼り、人々の目をそらせようとしているのだ」と続けた。
ロシアが大統領選に干渉している、との見方についてプーチン大統領は、「これは、ヒラリー・クリントン候補を支持する人々によって作られた考え」と断定し、「まず、ロシアは敵という印象を作り上げ、その上でトランプ候補はロシアのお気に入りだとする。これは、大統領選で世論を操作しようとする米国内の政治的な争いだ」と訴えた。
クリントン候補が大統領となれば、ロシアに対し厳しい政策を取るのはほぼ間違いないとみられる。このためプーチン大統領は、トランプ候補への“肩入れ”の事実はないと否定し、今後予想される米国からの圧力を少しでも弱めようと一連の発言を行った、という見方が出ている。
2014年3月、ロシアがクリミアを事実上手中に収め、同地でロシア編入の是非を問う住民投票を目前に控えた時期、ロシア国営テレビの看板キャスターが、ロシアは米国を「放射能の灰」にすることができる唯一の国だと発言し、欧米から極めて強い反発を招いたことがあった。バルダイ会議の参加者が同発言を問いただすと、プーチン大統領は「私がいない場所で行われた不適切な発言だ」と説明。「ロシアは軍事的脅威である」との見方は、国防予算増額をもくろむ欧米諸国の幻想であると断定し、「ロシアは誰も攻撃することはない」と訴えた。
プーチン大統領は、ロシアは欧米の脅威ではないと強調する一方、ロシアとの「対等な、実のある対話」を拒否しているのは欧米であると責任転嫁する発言を繰り返した。
このような発言を行う一方で、プーチン大統領は、かつてロシアのリベラル派野党に属したこともあるキリエンコ元首相を、大統領府第1副長官という要職に任命する人事を行っている。
キリエンコ元首相は、エリツィン時代末期の1998年に35歳の若さで首相に就任したが、同年に発生したロシア通貨危機の責任を取らされる形で、わずか数カ月で首相を解任された。
翌年の1999年、モスクワで2015年に殺害されたリベラル派政治家のボリス・ネムツォフ元第1副首相や、イリーナ・ハカマダ氏とリベラル派野党「右派連合」を結成し、下院の右派連合会派のトップとして活動した。しかし、2000年にはプーチン大統領側に接近し、沿ヴォルガ大統領連邦管区大統領全権代表に任命された。
リベラル派に属する政治家を大統領府の要職に任命することで、欧米との関係改善を図りたいというシグナルを送った可能性があるともみられている。






