ロシア正教会トップ 侵攻に沈黙 強まる批判


プーチン氏との蜜月優先か

ロシア正教会トップのキリル総主教=2018年10月14日、ミンスク(EPA時事)

 ロシア正教会の最高指導者、モスクワ総主教キリル1世に対する批判の声が強まってきた。ロシア軍のウクライナ侵攻が始まって以来、一言もプーチン大統領を批判していないためだ。一方、ウクライナでキエフ総主教庁に属する正教会聖職者とモスクワ総主教庁に所属する聖職者が「戦争反対」で結束する動きも出ている。

 ウクライナでは2018年末、キエフ総主教庁の「ウクライナ正教会」と、ロシア正教のモスクワ総主教庁と関係を維持する「ウクライナ正教会」に分裂、両正教会はこれまで対立してきた。

 分裂の結果、ロシア正教会は332年間管轄してきたウクライナ正教会を失い、世界の正教会で影響力が低下。一方、ロシア正教会を通じて東欧諸国の正教会圏に政治的影響を及ぼそうとしてきたプーチン氏の野心は一歩後退せざるを得なくなった経緯がある。

 ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系)の首座主教であるキエフのオヌフリイ府主教は「ロシアは侵略者である」と明言。ロシア正教会でも200人余りの聖職者がロシア軍のウクライナ侵攻を「兄弟戦争」と批判、両国の和解を求めている。

 ウィーン大学組織神学研究所のクリスチャン・ストール氏とヤン・ハイナー・チューク氏は、スイスの高級紙「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング」(NZZ)への寄稿(3月14日)で、「プーチン氏は西側の退廃文化に対する防波堤の役割を演じ、近年、正教会の忠実な息子としての地位を誇示してきた。同時に、莫大(ばくだい)な国の資金が教会や修道院の建設に投資され、ソ連終焉(しゅうえん)後のロシア正教会のルネサンスに貢献した」と指摘、プーチン氏とキリル1世の蜜月関係を説明している。

 ストール、チューク両氏によると、「プーチン氏とキリル1世の蜜月は、ロシアのキリスト教が西暦988年にキエフ大公国の洗礼によって誕生したという教会の歴史的物語に基づいている。ベラルーシ、ウクライナ、そしてロシアは、教会法の正規の領土を形成する兄弟民族というわけだ。これはプーチン氏のネオ帝国主義的関心とほぼ一致している」という。

 なお、キリル1世は16日、ローマ・カトリック教会最高指導者、フランシスコ教皇とオンラインで会談し、ウクライナ情勢について語り合った。バチカンニュースによると、両指導者は「キリスト教徒は平和を実現するために可能なすべてのことをしなければならない」ことで一致したという。会談はフランシスコ教皇のイニシアチブで実現した。

 バチカンの報道機関が発表したテキストによると、フランシスコ教皇はウクライナでのロシアの行動を「戦争」と述べ、「カトリックの観点からは、聖なる正義の戦争とはいえない」と指摘した。それに対するキリル1世の発言内容は公表されていない。

(ウィーン・小川敏)